#24/体内のマッチ箱

『赤い薔薇ソースの伝説』 ラウラ・エスキヴェル 西村栄一郎訳 世界文化社

 大人のための童話・・・・などという言い方は陳腐かもしれないが、気軽に楽しく読めて、それでいて味わい深い小説だ。メキシコのベストセラーで、後に映画化されて世界各国でヒットした。ローカル色が強い内容だが、語り口は洗練されている。そのへんが人気の秘密だろう。

 主人公の女性が、生家に伝わるがんじがらめのしきたりに抵抗しながら、二人のタイプの違う男性の愛情の間を揺れ動く。その愛憎の物語が、1月から12月までの代表的な郷土料理の詳細なレシピとともに語られる。人生の様々な出来事が、すべてその日に作られた食事の記憶と重なっている。どんな事件が起きても、主人公はいつも台所で料理を作っている。タマネギや七面鳥やソーセージやいんげん豆を通して、愛も死も革命も語られるのだ。
 時としてそれは、ラテンアメリカらしい、奔放な幻想へと飛躍していく。涙入りのケーキを食べた花嫁は郷愁に襲われて嘔吐し、血の入ったソースを口にした娘は発情して裸で出奔してしまう。

 物語に重要な意味を持つインディオの老婆の考え方。・・・・人の体内には生まれた時からマッチ箱があるという。そして、「だれでも生きていくために点火するものを発見しなければならない。−中略−もし点火するものをうまく発見できないと、体内の燃焼の核はいつのまにか湿ってしまい、ひとつの燐のかけらにさえ火をつけることができなくなる。」そうなると、魂は深い闇の中をさ迷うことになる。・・・・つまり、湿ったマッチのような人生だけは送るな、ということだ。
(1993年初版)

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