#25/闘うグリンゴ

『アンデスの狙撃者』 ペーター・ハイム 松谷健二訳 角川文庫

 原題は『殺せ、グリンゴ』。グリンゴというのは、中南米全体で用いられる、アメリカ人に対する蔑称だ。この小説の作者はドイツ人。主人公もドイツ人だが、やはり作中グリンゴと呼ばれている。

 舞台は1960年代のペルー。物語の中では、ある独裁者の率いる革命政権が樹立し、それに危機感を持ったアメリカが、腐敗した前政権の将軍を擁立してペルー侵攻を企てている。一方、革命軍の兵士に妻を殺されたドイツ系移民の主人公は、復讐のために米CIAの傭兵となり、たった一人で革命指導者の暗殺に向かう。・・・・とここまでは、ややありがちな筋立て。
 だが、後半はちょっと複雑な展開になる。自分なりの強い正義感に燃える主人公だが、CIAにはその行動パターンはお見通しで、うまく操られたうえ状況が変わって利用価値がなくなると、あっさり捨てられてしまう。そこが、純アメリカ製のヒーローとは違うところ。そして皮肉などんでん返しが待っている。

 終盤、革命軍に捕らえられた主人公が「ペルーは私の故国だ」と訴えると、若い革命家にこう返される。「アハ−−センチな冗談ですな。ペルーとは、あなたが暮らしよかった国なのだ。あなたが財産を造れた国。シャツ一枚でやってきた男がここで製材所の主人になれた、ということです。他人に帽子を脱がせ、脱ぐのを忘れたやつがいたらそう要求する人間にね。故国ですと? あなたに故国はない。あなたは根なし草だ。−後略−」
 単純な世界観に生きるグリンゴには、きつい言葉だ。
(1978年初版)

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