#27/マエストロスの時代

『メヒコの芸術家たち』 伊高浩昭 現代企画室

 筆者は1960〜70年代にかけて8年余りをメヒコ(メキシコの正確な呼び方)で過ごし、そこからジャーナリストとしての人生をスタートしたという。本書は、当時のメヒコで彼が交流した、有名無名の芸術家たちの肖像をまとめたもの。

 ハイライトは、なんといっても本の前半分を占める、シケイロスとタマヨへのインタビューの記録だろう。この20世紀のメヒコ美術界を代表する両巨匠と、筆者は23歳の若さで会見しているのだ。作品も考え方も生き方も、まさに水と油ほどに違うこの二人の天才画家の対比は、その発する一言一句にまで読み取れて興味がつきない。それぞれの芸術論を引用してみよう。
 シケイロス「絵は個人の趣味、自己満足、収集、画商のための小さなものではなく、人民のためになる国家の芸術、政府の美術をつくるべきだと考えた。自分たちの芸術をもってメヒコを真に独立させようと決意した」
 タマヨ「絵画こそ、文化の最高峰だと私は信じている。それは絵画が逸話的なものを排除した、過去のあらゆる純粋な表現技術の蓄積の結果としてあるからだ。この意味で絵画は無限の過去だ。こう考えれば、だれが偏狭なメヒコ主義などにかかずらっていられるだろうか」
 このような発言を読むと、二人にはまったく相容れるところはない。

 だが、伊高はこう書いている。「ふたりは思想や絵画理論の違いから厳しく批判し合ったが、大物同士、認め合った仲だった。しかし直接的な出合いは互いに避けていたように思う。」
 おそらくその通りなのだろう。偉大なるマエストロス(達人たち)の時代だった。
(1997年初版)

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