#29/ピラミッドを造った人々

『インカとエジプト』 増田義郎・吉村作治 岩波新書

 中南米とエジプトの考古学者同士の対談。これまであまり研究者の交流のなかった、二つの古代文明の比較文明論の試み。地球上の全く別の場所に、無関係に、異なった環境で繁栄した、アンデス文明とエジプト文明。両者とも独特の個性を発揮しているが、そこには意外なほど多くの共通点も見られる。

 たとえばピラミッド。エジプトでも中南米でも、国家形成の初期の段階に、巨大なピラミッドがいくつも造られる。その目的や建築方法には謎も多い。しかしここで、二人の考古学者が口をそろえて言う、「ピラミッドによる再分配経済」といのは面白い。旧来、このような古代の大建築は過酷な奴隷制度によって実現されたとされてきたが、実はそうではなく、現場の労働を担ったのは、国に動員された普通の農民たちだというのだ。彼らは建設に従事している間は、国から手厚い生活保障を受け、食料だけではなく高価な布製品なども支給されたという。つまりこれは一種の公共事業で、国が徴収した税の、民への再分配のシステムなのだ。再分配の方法はそれだけではなく、毎月のように催される儀礼や祭典を通して、国の持つ大量の物資が消費され、与えられていた。このことは、エジプトでもアンデスでも事情は全く同じだったようだ。

 ところでこの対談は、ただ単に二つの文明の類似点を興味本位に並べてたてたものではない。増田先生はこう発言している。「たしかにエジプトとインカの間には多くの類似点があり、比較はたいへんおもしろいんですけれども、両者のちがいもそれに劣らず重要だと思います。」学者らしい冷静な指摘だ。
(2002年初版)

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