#31/民俗誌の実験

『ラテンアメリカン・エスノグラフィティ』 落合一泰 弘文堂

 書名の「エスノグラフィティ」は、「エスノグラフィ(民俗誌)」と「グラフィティ(落書き)」を結んだ筆者の造語だそうだ。その意味するところは、「エスノグラフィティは、モンタージュ技法を用いた民俗誌だ。−中略− 私たちは、日記、旅行記、ジャーナリズム、映像など人類学や民俗誌の隣接領域にみられる引用術を、積極的に検討し取りこむ努力を傾けてもよいのではないだろうか。」と説明されている。本書にも、その名のとおり、本格的な学術論文から、紀行、エッセイ、芸術論など、さまざまなタイプの中南米に関する文章が収められている。

 「ツォツィル民俗誌点描」では、メキシコ南部での文化人類学のフィールドワークにまつわる、いわば裏話が披露されている。
 筆者はインディオの村で、現地の言葉を覚え、貫頭衣を着て、「写真屋」という役割を得て、2年半を過ごす。1年が過ぎたころ、村の男にこう言われる。「あのね、あんたの国はこの村とメキシコ・シティのまんなかあたりにあるんじゃないかって、いま話してたんだけど」−−つまり、インディオの中に入ってきた妙な日本人は、白人や混血の住むメキシコ・シティより自分たちに近しいものだ、という表現である。「文化的距離で空間的距離をはかるその論理性の前には、脱帽するほかなかった」と、筆者は記している。

 本書には他にも、コロンビアの文学者ガルシア=マルケスの故郷を訪ねる瑞々しい旅行記「アラカタカ紀行」、ものすごく知的なアルゼンチンの漫画「マファルダ」を紹介する「キノのおののき」など、ラテンアメリカの一面を見事に切り取った文章が並んでいる。
(1988年初版)

Back     Next

Top