#32/ポップな革命

『アマゾンの皇帝』 マルシオ・ソウザ 旦 敬介訳 弘文堂

 帯に「ポップ小説」と銘打っているが、そのとおり、エキセントリックな登場人物たちが、行き当たりばったりに、やりたい放題をする冒険小説。ブラジルのベストセラーだそうだ。19世紀末、主人公のスペイン人ガルベスは、運命に翻弄されるがままに、アマゾンの奥地へと踏み入り、革命と称してブラジルとボリビアの国境地帯に「帝国」を築いてしまう。その顛末を荒唐無稽な「自伝」という形で描いている。・・・・だがはたしてそれだけだろうか? アフォリズムの羅列のような文体には、どうもとんでもない教養と批判精神が潜んでいるような匂いがするのだが。

 そのへんを読み解くには、末尾にある訳者旦敬介の解説「誇大妄想の地図」を参照すべし。実際この長い解説は一個の優れた文化論・文学論として読むことができ、本書はまさにソウザと旦の二つの作品によって成り立っているといえよう。読者はそこで、奥の深いブラジルの精神というものの輪郭を、垣間見ることができる。旦の言葉を借りればそれは「異質なものを鷹揚に許容して、ゆるいまとまりのなかに抱きとめていくという、理想のブラジル人にむけての練習問題」だ。

 私が気になった登場人物の一人は、マイケル・ケネディという名のアメリカ人の総領事で「合衆国の典型的な役人」。美貌の白人だが、米国の利益を代表する有能(?)で冷たい男。この男が、アマゾンの奥地へ入るにしたがい、異文化への嫌悪と潔癖症から、次第に精神の均衡を崩していき、ついには幼児帰りしてお漏らしをするようになる。その何とも情けない姿には、笑わせられた。おそらく、ブラジルの読者も笑っただろう。
(1988年初版)

Back     Next

Top