#33/白い粉サミット

『麻薬王カルロスの首』 ポール・J・ウォルコフスキー 堀内静子訳 光文社文庫

 残念ながら、中南米の犯罪やブラックマーケットの根には、必ず麻薬が関係している。それどころか、権力・反権力を問わず、政治や外交の裏側にも、いつも麻薬の影がある。本書は、ラテンアメリカの麻薬組織の抗争を描いた冒険小説。作者は米国のジャーナリストだ。小説としてはやや散漫な印象だが、舞台を現実の状況の上に設定しているので、そこに含まれる情報分析が興味深い。

 中南米各国の麻薬密輸業者がペルーに集まって会議を開く場面。新旧の組織の首領の意見を並べてみよう。
 古くからのマフィアのボス。「われわれは政治権力を握ろうとする衝動に抵抗し、金持ちであるだけで満足しなければならない。−中略−これはビジネスであり・・・・愚かしい政治闘争では断じてない」
 極左テロリストのリーダー。「アメリカ帝国主義は世界社会主義の手によって壊滅的な打撃を受けねばならず−中略−われわれは西洋の子供たちを堕落させるために麻薬を利用し、彼らのブルジョワ的弱点と無能力をさらけださせる」
 日和見的な密輸業者。「世界の革命勢力が、われわれのこの組織に毎年何億ドルも注ぎ込んでくれるんだぞ。どうしろというんだ。われわれのマーケットを彼らに与えるなと言うのか」

 だがいずれにしても、中南米のコカインが米国という巨大な市場に流れ込んで行くのには違いがない。アメリカへ渡った麻薬王カルロスは、このように考える。「カルロスはにやりとした。彼を億万長者にのしあげたのは、ほかならぬこの国の退廃ぶりなのだ。」
(1989年初版)

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