#36/証言者としての詩人

『南へ』 田村さと子 六興出版

 副題は「わたしが出会ったラテンアメリカの詩人たち」。自身も詩人である筆者が、自分の人生と重ね合わせて、スペイン語圏の詩や詩人について語る。それはまた、1970〜80年代の激動の中南米社会のドキュメントにもなっている。アジェンデ政権のチリ、フランコ独裁のスペイン、サンディニスタ革命下のニカラグアと、その舞台はまさに歴史的な変動の渦中だ。

 第一章の「風のミストラルを追って」は、チリの女性詩人ガブリエラ・ミストラルの詩を解読しながらそのゆかりの土地や人々を訪ね歩く、筆者の詩人としての出発点ともいえる、静かな感動に満ちた旅行記だ。その旅は「唯一の持ち物のリュックの中には、ジーンズやセーターの他に、メキシコで辞書を繰りながら、手さぐりで読み続けてきた書きこみだらけの『ミストラル全詩集』と、絶版で入手できない研究書を筆写したノートを放りこんでいた。−−」というように物質的には貧しいのだが、外と内への感受性を全開にして、精神的には豊かな感情と思索で満ち溢れている。

 革命反革命の不安定な時代に、発言する詩人であるということは、まさに命がけのことであるらしい。多くの詩人が、時の権力により投獄され、虐殺され、口を封じられ、亡命を強いられている。スペインの詩人ホセ・イエロの次のような言葉が引用されている。「−−香水のような耽美主義の詩人は平和な時代の産物であり、証言者としての詩人、それはドラマチックな時代の産物である。戦後の詩人である私たちは、宿命的に証言者とならざるをえなかった−−」
(1986年初版)

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