#38/転がってゆく人生

『ワイルド・ソウル』 垣根涼介 幻冬舎

 2004年3月、戦後ドミニカの移民問題について、小泉首相は「外務省として多々反省すべき点があった。不手際を認め、しかるべき対応を考えたい」と国会で発言したが、例によって言葉だけで、問題解決への進展は全く見られない。1950年代、政府外務省のいわゆる「棄民政策」による詐欺同然の勧誘に乗せられ、不毛の土地へ移住させられた人々と日本政府の裁判は、今も続いている。

 本書は、同じように戦後ブラジルの熱帯雨林の中で斃れていった移民の、かろうじて生き延びた二世たちの物語。一種の暗黒小説だが、その底には、自国民をないがしろにする国家に対する義憤がある。ストーリーは、日本の外務省を襲撃したうえ、当時の責任者たちを誘拐するという、かなり大仕掛けなものだが、細部のリアリティがそれを支えている。
 主人公の二人の日系二世、松尾とケイの対比が面白い。生真面目な日本人の血を濃く残す松尾と、ブラジルに順応して野放図なケイ。それは、日系人の両極のタイプを見るようでもあるし、ラテンアメリカの明るさとその裏側にある暗さのコントラストを見るようでもある。

 外務省襲撃の場面で、カーステレオから流れるサンバが、展開する事件の性格を表して、効果をあげている。その歌詞の一部を引用する。「−−輪をごらん 輪をごらん/輪は廻り、転がってゆくためのもの/転がってゆく人生/シランダの輪をごらん−−黒人女の背中の上に/いまでも泣く子をなぐさめているよ/老婆の人生のさまざまな曲がり角に/輪は廻り、転がってゆくためのもの−−」
(2003年初版)

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