#40/風雲と老いぼれ

『風雲のメキシコ』 エドガー・ライス・バローズ 厚木淳訳 創元推理文庫

 「ターザン」や「火星シリーズ」で有名なアメリカの作家バローズが1921年に発表した、冒険小説。
 1910年代の革命下のメキシコを舞台に、米国人のおたずね者が、表向き祖国解放を称える山賊の部隊に入り、さらに「インディアン」にさらわれた米国人の美女を救い出すため、縦横に暴れまわる大活劇。リアルタイムでメキシコ革命を描いているわけだ。さすがに、当代の流行作家の作品だけに、登場人物も生き生きとして、早い展開で一気に読ませる。

 しかし、書かれた時代もあるのだろうが、その偏見と独善もかなりなものだ。メキシコという国は「この国では人間の命を、肉屋が処理する動物の命と同じように考えている」とし、その国民は「メキシコ人たちの浅黒い肌は不気味な色を帯びていた」ということになる。あげく、主人公は「メキシコ人をばらすたびに、おれはメキシコを住みいい場所にするのに、それだけ貢献したような気がするんだ」などと言いはじめる。−−まあ、このような妄言は時代のせいばかりでもないか。「メキシコ」を「イラク」と置き換えてみたらどうだろう。

 ところで、この作品は、メキシコの作家カルロス・フエンテスの名作「老いぼれグリンゴ」(1985年)に、物語の構造が非常によく似ている。もちろん、「老いぼれ−−」はメキシコ世界に奇矯な他者としての米国人を放り込んだ実験的な小説だから、その中身は全く違う。ただ、フエンテスがこの小説を読んで「こりゃないよ」と思い、自分の小説を書き始めた、ということはあるかもしれない・・・・?。読み比べてみるのも面白い。
(1980年初版)

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