#43/ヤ・バスタ

『反米大陸』 伊藤千尋 集英社新書

 朝日新聞の中南米関係の記事に健筆をふるってきた、伊藤千尋氏の著書。「反米大陸」とは、もちろん中南米のことだ。過去に米国が、キューバで、パナマで、チリで、ニカラグアで、そして中南米のほとんどすべての国で行ってきた、容赦のない侵略と支配と略奪は、決して個々別々の事件ではない。本書は、米国の建国にまつわるメキシコ領の収奪から説き起こし、ハワイやフィリピンの事例も織り交ぜて、その横暴と野望の歴史を、ダイナミックに展望している。

 近年、南米を中心として、次々に、「超大国アメリカ」に反旗を翻した反米政権が誕生しているが、その要因を、「アメリカの圧力によって、−中略− 1990年代に進められた新自由主義の経済政策が原因だ」と、筆者は看破する。外資の導入、民営化、自由貿易、小さな政府、などの政策によって、中南米では、地場企業の倒産、失業者の増加、格差の増大、一般市民の貧困層への転落、などが連鎖的に起き、その社会はボロボロになってしまったのだ。−−まさに、米国追随の現在の日本も、他人事ではない。

 長年中南米を自分の足で歩いてきた著者は、世界の紛争地帯を報道するメディア、特にテレビを、「映った場面だけで、全体を判断するように作られている」と、厳しく批判している。米国に都合の良いほんの数十人の富裕層によるヤラセを映して、あたかもそれがその国の世論であるかのように見せかけるという詐欺的行為が、中南米でも中東でも横行しているというわけだ。
 そんな米国に対する中南米の人々の感情は、メキシコ南部チアパス州で蜂起した左翼ゲリラの次のスローガンに、端的に表現されている。−−−−「ヤ・バスタ(もう、たくさんだ)」。
(2007年初版 集英社)

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