#47/滋養たっぷりのスープ

『キューバ音楽』 八木啓代・吉田憲司 青土社

 キューバ音楽は体にいい、というのは私の持論だ。その音のうねりに身を任せていると、細胞が活性化し、血液がサラサラと流れだす。そんなすばらしいキューバ音楽は、俗に「アフリカの太鼓とスペインのギターが恋をして生まれた」などと言われるが、それほど単純なものではないようだ。滋養たっぷりのその音楽は、様々な時代の様々な地域の文化が溶けあって、鍋の中で煮えるスープのようなものだ。そのスープのレシピを、わかりやすく教えてくれるのが、本書だ。

 私が改めて面白いと思ったのは、「ラム&コーク」と題された章。1930〜50年代のキューバは、米国人の高級リゾート地として、現代のラスベガスのような「繁栄」をとげた。ハバナのキャバレーには、世界中のスターや音楽家たちが集まり、当時の最先端のショウを演じていた。ジョセフィン・ベイカー、イマ・スマック、ナット・キング・コール、それに、チャーリー・パーカー、セロニアス・モンクなどの名前も出てくるから、驚く。そうした、ショウ音楽やジャズのエッセンスもまた、キューバ音楽に取り入れられたのである。

 そういうことを知ると、話は少し大きくなるが、1959年のキューバ革命は、当時世界で最も爛熟した資本主義の享楽を経験した、あるいは目の当たりにした人々による、革命だったということがわかる。このような成立過程を経た社会主義国は、他にはないだろう。またそれが、キューバの強みでもある。本書にもこうある。−−「キューバ人がソ連や東欧の人々と違っていたのは、アメリカがあまりに近かったからこそ、多くの人々が、『資本主義化しさえすれば、簡単に生活が良くなる』というような安易な幻想をもっていなかったことにある。」 
(2009年増補新版発行)

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