#49/夢のような刑務所

『ルイス・バラガン/バラガン自邸』 エーディーエー・エディタ・トーキョー
文:二川由夫 撮影:二川幸夫

  20世紀メキシコの建築家ルイス・バラガンの設計した自宅を、大判の画像で紹介した写真集。玄関から、居間、書斎などの各部屋、屋上、庭などを廻り、その情景は溜息が出るほど美しい。メキシコの建物にしばしば見られる、ピンクや黄色の鮮やかな色彩をところどころの壁に配し、大小の窓から射し込む光が、迷路めいたつくりの邸内に、ドラマチックな陰影を与えている。

 外の通りから眺めると、何の変哲もない、くすんだ色の古びた建物である。内部の素晴しさは想像もできない。治安のあまりよくない地区なので、故意に目立たなくしているのかと、勘ぐりたくなる。そのせいか、私はこの建物から、つい刑務所を連想してしまう。もちろんそれは、夢のような刑務所なのだが。−−外側はほとんど壁に囲まれ、中庭があり、窓はその中庭に向けて開かれている。屋上もまた高い塀に囲まれ、街の景色を見ることはできない。見上げれば、高い青い空があるだけ。−−一般的な住宅建築が、自然や地域とのつながりを重視し、外への広がりを志向するのとは、まったく逆の、実に閉鎖的な建築だ。静かな、内省的な生活のための家なのだろう。

 バラガンは、20世紀のモダニズム様式に属する建築家だ。だが、彼とモダニズムの関係を考える時、私は、同じメキシコの画家、フリーダ・カーロとシュルレアリスムとの関係に似たものを感じる。両者とも、ヨーロッパの知性が構築した芸術運動を、ローカルでプリミティブな感性で、軽々と乗り越えてしまう。いやむしろ、メキシコの豊かな大地から恵まれた才能を、大きな時代精神の流れの中で、美事に花開かせた、と言うべきだろうか。
(2009年発行)

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