パラグライダーの定期点検2008
パラグライダーは航空機でありながら、非常に飛行安定性に優れており、またメンテナンスも
多くは必要としません。しかし、翼は微妙なバランスの上に成り立っており、見た目にはきれい
でもバランスが悪く、安定性が悪くなる場合もあります。通常の使用で起こるこの経年劣化を
どのように点検、管理したらよいのか考えてみましょう。


ブーメラン5X-ALPS(ポルシェ27g/u) NOVAファクター(ポルシェD0911)
グライダーの素材
1.キャノピークロス
キャノピークロスはポリエステルまたは、ナイロンの強化された布地でできています。縦横に
リップストップといって引き裂き強度を高めるための糸が織り込まれており、紫外線や磨耗から
保護し、空気透過率を小さくするためにコーティングがほどこされています。
2.ライン
ラインにはアラミド系のケブラーやポリエチレン系のダイニーマを芯材とし、ナイロンやポリエステル
の被覆がかぶせられています。ケブラーもダイニーマも直径1.0mmで80kg程度の強度を持つ非常に
強靭な素材ですが、紫外線や磨耗には弱いため被覆がされています。しかし、パラグライダーの有害
抵抗を減らすためにはライン数を少なく、直径を細くするのが有効で、ためにより細く、ライン数の少ない
機体開発がされています。
ケブラーの特徴
(長所)寸法変化が小さい (短所)水気、紫外線、折り曲げ、圧縮に弱い
ダイニーマの特徴
(長所)折り曲げに強い (短所)伸縮がある、特に水気、熱に影響される
グライダーの定期点検方法
DHVで行っている定期点検の方法は次のような方法で行われます。
キャノピーの目視チェック・・キャノピーの破れ、縫い目の広がりなどをチェック
キャノピーの空気透過率の測定・・空気透過率測定器でキャノピーの
インテーク付近10ヶ所程度測定。
キャノピーの引き裂き強度・・ばね秤の先に針のついた器械をクロスに
さして強度測定。(穴が開きます)
ラインの目視チェック・・ラインのささくれ、芯材の内部破断などを目視チェック。
ラインの長さチェック・・設計されたラインの長さに照らし合わせ長さをチェック。
ラインの強度テスト・・A、Bボトムラインを1本サンプルとして破断強度をテスト。
ラインの長さ調整・・ラインストレッチなどによって、ラインの長さを設計どおりの
長さに調整します。
こういった点検によってどのような問題が発見されるかというと、上記のように
機種ごとに使われている素材や、使用状況によっても異なりますが、ありがちな
問題とその対処法をまとめてみましょう。
ブーメラン4:ケブラーコンペライン
キャノピークロスの劣化
キャノピークロスは素材にコーティングが施されているのですが、これが
紫外線や磨耗、折り曲げによってはがれたり、割れたりしてきます。
そうすると当然、空気透過率は大きくなってきます。空気透過率が大きく
なるとキャノピーの内圧が保ちにくくなりますから、失速に入りやすく、
立ち上がりが悪いなどの影響がでてきます。グライダーにもよりますが、
全体の透過率が5秒程度になるとその影響がはっきり分かります。
機種にもよりますが、例えばJPAのグライダーチェックの場合は次の
ように評価されます。
50秒以上: Aランク 50〜30秒:Bランク 30秒未満:飛行に不適
*JDC測定器の場合
キャノピークロスの素材はメーカー、機種によっても異なりますが、
それぞれに特徴があります。最近は耐久性が高く、比較的軽量な素材も
開発されてきています。以下は私が測定したデータを元にお話しします。
どの素材も紫外線を浴びた時間に比例して空気透過率が大きくなるよう
ですが、新品の時の透過率が小さく、秒数が長く、またその透過率が
劣化しにくいものがより耐久性が高いと考えます。その意味では下記の
ガルベノールが最高ですが、重さという問題がでてきます。そのため、
新しい素材も開発されています。
上面にアルミコーティング
ポルシェスポーツ社ナイロン・スカイテックス・・アドバンス、グラジェントなど
新品で300秒ほどで、軽く、ハンドリングがよい、耐久性は5,6年ほど。
現在ではもっとも標準的に使われ、40g/uが平均的な素材だが、軽量素材
では27g/uも開発されている。
ポルシェスポーツ社ナイロン・D0911・・NOVA
2005年ごろNOVAとポルシェマリン社が共同開発した新素材で従来の
スカイテックスに水性コーティングを施し耐久性に優れている。従来の
スカイテックスに比べ、新品時の透過率が600秒以上と耐久性が高い。
ガルベノール社ナイロンGelvinor・・APCO、NOVA、OZONE、SOL
南アフリカのガルベノール社の開発でナイロン布地にポリウレタンとシリコン
の2層コーティングが施され、耐久性は非常に高く、新品で透過率800秒程度の
結果も出る。対磨耗性も高く、劣化が小さい。短所としてはキャノピー重量が
重くなり、シュートなど反動が出やすい。
東レ社ナイロンToray・・イーデル
質感はやわらかく、軽く、張りが小さいが紫外線劣化は小さく、新品で
透過率400秒程度ある。色落ちも少ない。
JDC社空気透過率測定器
空気透過率を測る
空気透過率を実際に測る場合、キャノピーの直径10cmほどの範囲に測定器を
当てます。そのため、そこがたまたま地面にぶつけたり、いばらに刺さったり
したところだと透過率は極端に悪くなります。そのため、キャノピーの上面の
測定値と下面の測定値では上面の値が小さくなりやすいのです。機種によっては
上面にガルベノールの丈夫な布地を使い、下面に軽いスカイテックスを使ったり
しています。
グラハンを繰り返す初心者やスクール機の場合、こういった測定値が出ることが
多いです。上面が大きくいたんでいて、下面がまだ120秒程度といった場合、
紫外線劣化はさほどでもないですが、磨耗によって前縁が傷んでいると
考えられます。翼の前縁はもっとも空力的に重要な部分と言われ、失速特性
などを変えますから、やはり大事にすべきでしょう。グライダーを前から落とさない
ようにする。さらに、当然なのは紫外線にあてないようにできるけ日陰に
おくことです。風待ちの間も劣化は進んでいるのです。
ラインの劣化、メンテナンス

アルファ4ハイク・・ケブラーコンペライン
被覆のついたノーマルラインはダイニーマとケブラーの2種類ですが、
ケブラーは折り曲げに弱く、ダイニーマは収縮が起こるという短所があります。
最近のグライダーの多くが下側の太いボトムラインにケブラーライン、上側の
細いトップラインにダイニーマラインを使用しています。
主なラインの種類
リロス社(ドイツ)
被覆つきのダイニーマ、ダイニーマシリアルライン: DSL70など
被覆つきのプレストレッチ加工ダイニーマ: PPSL160など
被覆なしのダイニーマ、ダイニーマコンペライン: DC60など
被覆つきのケブラー、テクノーラシリアルライン: TSL140など
テイジン社(日本) ケブラーライン
OZONE・GEO(軽量)
ライン収縮のメンテナンス
前述のようにダイニーマは収縮によって寸法変化が起こりますので、
ラインストレッチといって20kgほどの荷重をかけてラインを引っ張ることに
よって元の長さに戻します。方法としては割りと簡単で左右のライザーに
20kgの錘をぶら下げ、ラインのキャノピー取り付け部の端を持って
引っ張ります。ダイニーマはこのラインストレッチを2年に1回程度行えば
よいと考えますが、コンペ機などは反応が敏感であり、1年以内に収縮が
許容範囲を超えるももありました。
ラインの寸法変化の許容範囲は機種によって違います。グライダーの
空力中心は前縁より25%ほどでA、Bラインの荷重がつよくC,Dラインの
荷重が弱いためより荷重の弱い部分が収縮が大きく、C、Dラインがより
短くなり、全体に迎え角が上がった状態になります。寸法変化の許容範囲は
大体20mm程度といわれています。つまり、ラインストレッチをしたときに
20mm以上の伸びがあれば、ストレッチの必要があると判断できます。
翼断面にかかる荷重
このC,Dラインが収縮し迎え角が上がった状態のグライダーはより失速に
入りやすく、立ち上がりが遅くなり、テイクオフも加速しにくくなります。
よく見かける例としては、風が弱いテイクオフでグライダーが後に残るために
スピードが乗らずそのままディープストール気味に沈む場合があります。
こういった、ラインの収縮の影響を受ける機種の最近の例を上げてみます。
NOVA・・PRIMAX、ルーキー、マンブー、アルタックス、シンタックス
GIN・・ブーメランスポーツ、ブーメラン5
アドバンス・・イプシロン3、アルファ3、シグマ5、シグマ6など
ケブラーラインでも収縮の影響を受けるものもあります。
GIN・・オアシス、ZOOMなど
ダイニーマラインの収縮
ダイニーマ素材で湿気を受けるような環境ではとくに収縮しやすいようです。
最近のダイニーマは改善され、リロス社ダイニーマなどは細く非常に強度も
強くできています。ボトムラインなどにつかわれるPPSLはプレ・ストレッチ
ダイニーマといって製造時に加熱ストレッチをしており、寸法変化が小さいようです。
NOVAのダイニーマラインではライザーからキャノピーまで6m程度の長さのうち、
20から40mmほど収縮するものもあります。同じ長さの収縮でも翼弦長の短い
スモールサイズや翼端は大きな影響を受けることになります。体重が軽いこともあり、
XS、Sサイズにのる方はとくに注意したほうがよいでしょう。
ブーメランスポーツ、ブーメラン5のラインの問題

2006年に発売されたブーメランスポーツやブーメラン5では、トップとミドルの
ラインにリロス社のダイニーマのコンペラインを使っていましたが、ラインが
収縮して立ち上げにくくなるといった事例が報告されています。これはDC60という
品番で書かれていますが、2004年ごろから盛んに使われるようになりました。
コンペラインは名前の通り、以前はスピードを必要とするコンペ機だけのもの
でしたが、経年劣化の対策が向上したためか、シリアルグライダーにもトップ
ラインは被覆なしのラインが増えています。その場合、ケブラーとダイニーマが
ありますが、ケブラーは強度劣化が出やすいため、ダイニーマのコンペラインを
使用することが多いのです。
上記のブーメランスポーツやブーメラン5では、このダイニーマのコンペラインが
収縮して影響を受けたと考えられます。筆者もブーメラン5の07年モデルにのって
いますが、収縮の影響が出やすいので3ヶ月ごとにラインストレッチをしています。
GINとアエロタクト社ではケブラーラインへの交換を勧めています。
ラインストレッチの方法

ラインストレッチの具体的な方法について説明します。もっとも手軽にできる
ラインストレッチの方法としては、上の写真のように20kgのおもりと滑車を
使います。滑車を定滑車にして上に固定し、滑車を通したロープの一端を
ライザーに、反対側を20kgのおもりにつなぎます。
たいていのラインは最大荷重が50kg〜100kg以上ありますが、20kg程度の
荷重をかけてストレッチすると効果的です。ライザーをつないだラインの
グライダーとの取り付け位置の辺りをつかんで、おもりが持ち上がるまで
引っ張り3〜5秒ほど保持して戻します。この際、すべてのラインを間違いなく
同じ荷重で引っ張ることが重要です。
引っ張る前の長さと、引っ張った後の長さを隣り合うラインと比べてみると
どの程度収縮していたかがわかりますが、この際2,3cm伸びることが多い
です。ブレークラインなどは5,6cm伸びることもあります。
ラインの長さ計測

ラインの長さを正確に計測するためには、ドイツのWORNER社製の
ライン長計測機を使います。これは、DHVでも標準で使用されている
もので、5kgの圧力センサーとワイヤーによる1mm単位の長さ計測機
が連動して、コンピューターに長さを記録できるようになっています。
これにより、ライザーからキャノピーの取り付け位置までのラインの
長さを1mm単位で正確に計測できます。ライントリムとは大まかに言えば
各ラインの長さの差によるものなので、ひとつのラインとそのほかのライン
との長さの差が設計どおりになっていれば問題ないといえます。ラインの
計測は熟練した人ならば、1機あたり1時間ほどでできるでしょう。しかし、
ラインの長さに問題があった場合や、ラインの設計値がわからない場合も
あり、それ以上の時間がかかることも多いです。
ラインストレッチ以外の調整方法
ラインの長さを調整するための方法は、ほかにもあります。ラインを
ラピッドリンクに巻きつけることによって、ラインの長さを短くするという
調整方法で、メーカーのテストパイロットやNOVAのグライダーには
よく行われる方法です。
CDラインが収縮する対策として、ABラインを10から20mm程度短く
することによって、対処することもできます。しかしながら、この方法は
ライン長測定をした後か、テストパイロットのような熟練した人にしか
使えません。つまり、どの程度ラインバランスが崩れているか、正確に
把握できる必要があります。
立ち上げで確認
ケブラーラインのメンテナンス
ケブラーラインは寸法変化は少ないのでディープストールといった問題は
起こりにくいのですが、折り曲げに弱いため被覆の中の芯材が折れて破断
していく場合があります。特に起こりやすいのがトップラインのラインの縫い代
の部分です。
縫い代の部分はラインが2重になり固いため、やわらかい1本の部分との間が
折り曲げの力がかかりやすく、芯材が破断しやすくなります。特にブレークライン、
C,Dラインのキャノピーに近い部分は立ち上げの際に根がかりしやすく
傷みやすい部分といえます。
アドバンスのオメガ4、シグマ4などはトップラインにケブラーを用いており、
この事例を見ることがあります。アドバンス社もオメガ5、シグマ5の頃からは
トップラインにダイニーマを用いています。やはり、細い部分は折り曲げに強いダイニーマの
ほうが耐久性があるということでしょう。
グライダーの定期点検のまとめ
定期点検の方法については上記のようにキャノピーの劣化、ラインの長さ
と損傷が重要なポイントとなります。そのほかにも縫い目が広がったり、
ライザーが損傷したりといったトラブルもありえますが、経年劣化がどの程度
すすんだかはキャノピーとラインでおおよそ分かります。普段のフライト終了時
やしばらくフライトしなかった場合はこういったポイントに注意して点検し、
久しぶりの場合は地上でグランドハンドリングをして立ち上がりなどを
確認するべきでしょう。
グライダーの点検、調整は各メーカー、輸入代理店、スクールなどで請け
負っておりJPA系列では2万円でライン調整もしてくれます。ただし、大きな
損傷や劣化になるとグライダー全体のバランスも悪くなるので、買い換えた
ほうが効果的ということになります。前述のようにダイニーマラインのライン
ストレッチなどは定期点検が必要で効果的な例です。
キャノピーの劣化を防ぐためにコーティング保護剤を吹き付けたり、
コーティングを再生する方法も数年前には宣伝されていましたが、
最近は見かけなくなりました。再生を行っても元通りの滑空性能に
戻るわけではないこと、そのほかのラインなど経年劣化もあるので、
ある程度は寿命と考えるということでしょうか。
グランボレでも空気透過率測定器を装備し、グライダーチェックも
実施できますので、時間のあるときなど気軽にご相談ください。
とくに中古売買を考える方は、重要と考えます。
2008年11月改訂