「会社法」ガイド〜設立手続きと機関設計を中心に〜
    

「会社法」制定の理由
 
 「会社法」(以下「新法」と言います)が一昨年5月1日に施行されました。「商法改正」「会社法改正」と言う人もいますが、実際は全く新しい法律です。そして新法施行は、近年の一連の「会社法制現代化」の終着点と位置付けられています。
 新法施行の背景には、旧「商法」中の「会社法」が最近の社会経済情勢の変化に対応するためひんぱんに改正が繰り返され、条文全体が複雑化し分かりづらくなっていたことや、現在では使われない古い用語が残っていたこと、また会社に関する規定が「商法」「有限会社法」「商法特例法」などさまざまな法律に分散してしまっていたこと等があります。

 そして会社に関する法律を集約し、株式会社と有限会社の統合、最低資本金制度の撤廃、M&Aなどに関する規定の見直しがされた点などが新法の大きな特徴です。
 新法は全部で約1,000条ある長い法律ですので、このページで取り上げるのはとりわけ重要度が高いポイントだけです。ご了解の上お読みください。

「会社法」の主な内容

有限会社を廃止し株式会社に統合
 新法施行前は、代表的な会社の形態として「株式会社」と「有限会社」がありました。
 新法は、有限会社を廃止して株式会社に統合しました。今後は有限会社を設立できません。反面、施行前は約190万存在した有限会社が施行と同時に消えてしまったわけでもありません。
 詳細は「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に伴う法律」、通称「整備法」と呼ばれる法律に書かれていますが、施行時すでに設立されている有限会社は「特例有限会社」として存続します。この「特例有限会社」は法律上は「株式会社」の一種ですが、
「有限会社」という文字を商号中で使い続けることが必要です。「株式会社」を名乗ることはできません。
 「特例有限会社」が「株式会社」になりたければ、組織変更の手続きをして登記し直す必要があります。

会社設立
に関する変更点
@最低資本金制度の廃止
 旧「商法」「有限会社法」では、株式会社または有限会社を設立するときに一定額以上の金銭(1000万円または300万円)の払込みをすることが必要でした。新法施行によりこの最低資本金制度は廃止され、資本金1円でも株式会社を設立することが可能になりました。
 しかし実際は1円だけで会社設立は出来ません。公証人の定款認証手数料、設立登記の際の登録免許税で24万円必要ですし、その後のランニングコストとしてもそれなりの現金は必要です。
 結局「資本金」は要らないが「資金」は必要なことに変わりはありません。
A「発起設立」において金融機関の「株式払込金保管証明」が不要に
 「商法」は、株式会社の設立方法として「発起設立」と「募集設立」の二形態を定めていました(新法も同じです)。大まかに言うと「発起設立」は仲間うちで資金を募って、「募集設立」は資本参加者を公募して設立する方法です。
 どちらの方法も、設立登記時に「株式払込金保管証明」という書類の提出を要求されました。書類を発行した金融機関が設立予定の会社の資本金を間違いなく預かっているという証明のためです。
 しかし、多くの場合発行にかなり時間がかかり、会社設立手続きがスムースに進まないという弊害がありました。
 新法施行後は、「発起設立」に限り「株式払込金保管証明」は不要
となり、銀行の預金通帳のコピーで足りることになりました。「募集設立」は現行どおり「株式払込金保管証明」が必要です。
B現物出資・財産引受けの範囲の拡大(検査役の調査不要条件の緩和)
 「現物出資」とは金銭以外の財産をもって会社に出資してもらうこと、「財産引受け」は設立中の会社のために会社設立を条件として株式引受人や第三者との間で会社が事業用の財産を引き受けることです。
 どちらも濫用を防止し、公正さを保つ意味から検査役の調査が原則必要ですが、現物出資や財産引受けの目的財産の価額が「資本金の5分の1を超えず、500万円を超えない場合」は検査役の調査は不要とされてきました。
 新法では、現物出資や財産引受けの目的財産の価額が「500万円を超えない場合」は検査役の調査は不要となり、条件が緩和されました。これにより現物出資による会社設立が活発になることが予想されます(例:資本金100万円の株式会社で、現金出資は50万円、残り50万円は自動車などの現物出資)。
 また、現物出資や財産引受けに際し検査役の調査不要の有価証券の範囲が「取引所の相場のある有価証券」から「市場価格のある有価証券」に拡大されました。
C類似商号規制の廃止
 旧「商法」「商業登記法」の規定では、同一市町村(東京23区と政令指定都市は同一区)の中で同一目的の会社どうしが判然区別しづらい(同じような)商号を使うことはできませんでした。
 しかしながら、これは交通機関・通信手段が発達し、市区町村という単位を飛び越えた商取引が普通に行われる現代の実状にそぐわないものでした。したがって類似商号規制は撤廃されました。ただし
同一住所で同一商号の会社を設立することは引き続き認められません。
 なお、先行の類似商号の存在を気にせず、漫然と他社と似た商号で登記してしまうのも問題がないとは言えません。新法や「不正競争防止法」は、不正な目的で類似商号を使うことを引き続き禁じているからです。場合によっては不正な目的とみなされて、商号使用差し止めや損害賠償を請求されてしまう可能性もあります。
 今後は新法施行前に引き続き、設立手続き前の商号調査、プラス
同一住所で同一商号の会社の有無の調査が必要になります。

合名会社・合資会社に関する変更と合同会社の創設
 @合名会社〜原則複数の「無限責任社員」のみで構成される会社です。
  • 社員1名のみでの合名会社の設立・存続が可能になりました。
  • 法人も合名会社の社員となることができるようになりました。
 A合資会社〜「無限責任社員」と「有限責任社員」で構成される会社です。
  • 法人も合資会社の無限責任社員になることができるようになりました。
 B合同会社の創設

 合同会社の特徴としては、会社の内部関係については組合的規律(原則として全員一致で定款変更・持分の譲渡・社員の入社などが決定され、社員自らが会社の業務の執行に当たる)が適用されること、社員の責任は有限責任(出資額の範囲内で債権者に対し責任を負う)ということがあげられます。
 会社運営は社員が自由に決めることができ、法律によるしばりの部分はほとんどありません。
 合同会社の社員の会社への出資は金銭その他の財産に限られ、また資本金の額を登記する必要があります。合名会社の社員や、合資会社の無限責任社員のように労務・信用などを出資の目的にすることはできません。また社員1名のみでの合同会社の設立・存続が可能です。

 なお、昨年8月よりいわゆる日本版LLP(有限責任事業組合)という新しい事業形態がスタートしていますが、これは合名・合資・合同会社とは違う法律にもとづくものです。

機関関係の変更点
 @機関設計の多様化
 旧「商法」では、株式会社に置く機関について選択の余地はほとんどなく、どの会社でも規模にかかわらず同じ機関が置かれていました。具体的には取締役、代表取締役、監査役、取締役会、株主総会の5つです(委員会設置会社のような例外はあります)。
 新法では、会社の実態に応じて比較的自由にどのような機関を置くかを決定できます。ただし以下の原則のしばりは受けます。
 ●すべての株式会社には、取締役と株主総会を置く。また譲渡制限会社でない株式会社には取締役会を置く。
 ●取締役会を置く場合には、監視機関として監査役(監査役会を含む)または三委員会(指名委員会・監査委員会・報酬委員会)等のいずれかを置く(大会社(資本金5億円または負債が200億円以上の会社)以外の譲渡制限会社で会計参与を置く場合を除く)。また監査役(監査役会を含む)と三委員会等をともに置くことはできない。
 ●取締役会を置かない場合には、監査役会及び三委員会等を置くことができない。
 ●大会社には、会計監査人を置かなければならない。
 ●会計監査人を置く場合は、監査役(監査役会を含む)または三委員会等(譲渡制限会社でない大会社は、監査役会または三委員会等)のいずれかを置かなければならない。
 ●会計監査人を置かない場合には、三委員会等を置くことができない。
 ●譲渡制限会社ではない株式会社、または譲渡制限会社でも取締役会を置く株式会社は、取締役会の中から代表取締役を選任しなければならない。
 上記のとおり、会社の現状に応じて多様な機関設計が可能になり、そのバリエーションは約40通りにもなります。現在、そして今後も株式会社の大多数を占めるであろう譲渡制限会社は、取締役と株主総会以外の機関は必要なくなります。取締役会を置かない場合は、取締役は1人でもよいし、監査役も置く必要はありません。小規模の譲渡制限会社は、少数の取締役だけですべての会社業務を執行する、以前の有限会社のようなスタイルが増えると思われます。
 いっぽう取締役会を置く場合は、原則として監査役(監査役会を含む)か三委員会等のいずれかを置く必要があります。
 なお、新法施行前から存続する株式会社を新しい機関設計に対応させるには、株主総会の決議を経て定款変更する手続きが必要です。
 A会計参与の新設
 株式会社は、会計参与という新しい機関を置くことができます。取締役と共同して計算書類を作成する、計算書類を保存・開示する、株主総会において計算書類を説明する等が会計参与の仕事です。任期は取締役と同じで原則2年、譲渡制限会社では10年まで延長可、委員会等設置会社では1年です。
 取締役会や監査役を置かない小規模な株式会社で、会計参与が会計面での取締役のサポート役として会社運営にあたるスタイルが予想されます。なお会計参与は、公認会計士(または監査法人)・税理士(または税理士法人)でなければなることができません。
 
 B株主総会の変更点
  • 譲渡制限会社は、原則として、株主総会の招集通知を会日の1週間前に発すればよいことになりました。
  • 少数株主の提案権の行使期限を、定款の規定で短縮できます。
  • 株主総会の招集地に関する制限は廃止されました
  • 大会社以外の株式会社でも、議決権を有する株主数が1,000人以上の会社については、書面投票制度が義務付けられました。
  • 招集通知を電磁的方法により受領することを承諾した株主に対しては、原則として議決権行使書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供すれば足り、株主から請求がある場合に限って議決権行使書面の交付が必要とされます。
  • 取締役の解任決議の要件が特別決議(3分の2以上の賛成)から普通決議(過半数の賛成)へ緩和されました。
  • 取締役会を置かない株式会社の株主総会はさらに柔軟化され、以下のようになりました。
    • いかなる事項についても決議可。
    • 招集通知を発するのは会日の一週間前よりさらに短縮可(ただし定款の規定が必要)。
    • 招集通知は口頭や電話でも可。
    • 招集通知に総会の目的事項を記載又は記録することは原則不要、また計算書類及び監査報告書の添付は不要。
    • 各株主は、株主総会で議題提案権あり。
 C取締役・取締役会に関する変更
  • まず、譲渡制限会社は取締役会を置く必要がなくなりました。
  • 譲渡制限会社では取締役を株主に限定することが可能になりました(ただし定款の規定が必要)。
  • 取締役の欠格事由(取締役になれない理由)から「破産者」が除かれました。かわりに欠格事由として「証券取引法・民事再生法・会社更生法・破産法・外国倒産処理手続の承認援助に関する法律上の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者」が追加されます。
  • 譲渡制限会社では定款に規定することで取締役の任期を10年まで延長できます。
  • 会社設立時の取締役の任期は1年以内という規定が廃止されました。
  • 一定の要件を満たした場合は、取締役会の書面または電磁的方法による決議が可能になります。
  • 共同代表取締役、共同代表執行役、共同支配人の制度が廃止されました。
 D監査役
 まず、譲渡制限会社は監査役を置く必要がなくなりました。
 監査役には業務監査権限及び会計監査権限の両方があるのが原則ですが、旧「商法特例法」の小会社(資本金1億円以下の会社)の監査役に限り、会計監査権限のみが認められていました。
 今後は、会社規模にかかわらず監査役には原則として業務監査権限及び会計監査権限があるとされます。しかし大会社以外の譲渡制限会社においては、定款で監査役の権限を会計監査権限に限定することができます。その場合は、株主の違法行為差止めが容易になるなど株主の監督権限が強化されます。

 また、後述しますがみなし大会社・中会社・小会社という会社規模に応じた区分が廃止されました。株式会社の資本金が1億円を超え「中会社」になった場合、それまでの監査役は退任し新しい監査役を選任する必要がありましたが、この制度もあわせて廃止されました。
 なお監査役の任期は、引き続き4年とされます(譲渡制限会社は、定款に定めを置くことで10年まで延長できます)。
株式・社債関連
 @譲渡制限会社で株式の譲渡を承認する機関は原則株主総会になります。また数種類の株式を発行している会社は、一部の種類の株式についてのみ譲渡制限株式とすることが可能になりました。
 A株券は原則不発行になりました。発行する会社は、定款でその旨の規定が必要です。
 B端株(1株に満たない端数の株)制度は廃止されました。
 C相続、合併などで譲渡制限会社の株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すよう請求できます(ただし定款の規定が必要)。
 D株式が市場取引されていない会社が自己株式を取得するための要件が緩和されました。
 E議決権制限株式の発行限度がなくなりました(現行は発行済株式総数の1/2までしか発行できません)。
 F取締役会を置く会社が社債を発行する場合、取締役会では社債の総額のみ定めれば足り、その他の事項は代表取締役に委任することができます。また取締役会を置かない会社は取締役が社債発行を決定できます。
 G社債管理会社の権限が強化されました。
 H発行日が異なる社債を一種類の社債として取り扱う「銘柄統合」を可能とするための規定が置かれました
 I株式会社だけでなく特例有限会社や合名・合資・合同会社でも社債の発行が可能になりました。資金調達の手段拡大の上で大きい意義があります。
M&A関連・敵対的買収防衛策関連
 @M&Aにおける対価の柔軟化
 吸収合併の場合に、消滅会社等の株主に対し、金銭その他の財産を交付することが認められました。また吸収分割・株式交換の場合にも、分割会社またはその株主、または完全子会社となる会社の株主に対し、承継会社・完全親会社となる会社の株式を交付せず、金銭その他の財産を交付することが認められました。
 これにより、合併の存続会社がその親会社の株式を対価として交付するいわゆる「三角合併」が可能になりました
 A簡易組織再編
 吸収合併の場合、存続会社が合併の対価として消滅会社等の株主等に交付する存続会社等の株式等の財産の額が、存続会社等の純資産額の5分の1を超えない場合等は、存続会社では株主総会の決議は必要ありません。取締役会決議だけで行えるM&Aの範囲が大幅に拡大しました。
 B略式組織再編行為の創設
 ある株式会社が、他の株式会社の総株主の議決権の9割以上を保有する支配関係にある場合、それら会社間でM&Aを行う場合には、支配されている会社における株主総会の決議は必要ありません。
 C種類株式や新株予約権の内容をより自由に定めることができるようになりました。
 D取締役の解任や合併等の株主総会の決議要件を定款で加重できます。
清算
 通常清算手続の簡素化が図られました。裁判所の監督下に置かれるという規定も削除されました。
 これにより、既存のうまく行かない会社や休眠会社を整理して新しい会社を設立するというサイクルがさらに活発になることが予想されます。
その他
 @株式・合名・合資・合同各会社間相互の組織変更が可能になりました。
 A旧「商法特例法」は、会社の規模に応じ「大会社」「みなし大会社」「中会社」「小会社」という4つの区分を設けていましたが、新法が会社の規模に応じ設けた区分は「大会社」のみです。今後は「大会社」とそれ以外の会社、そして譲渡制限会社かそうでない会社という区分になります。
 B支店所在地での登記事項は簡素化され、商号・本店所在地・支店所在地のみを登記すればよいことになりました。


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