公正証書について
一般の契約書、すなわち私製証書でも十分用が足りるのに、
どうして公正証書を作る必要があるのでしょうか?
私製証書と公正証書の違い
アパートや建物を借りる場合には、賃貸借契約書を貸す人と借りる人との間で結びます。このように、当事者どうしが作った契約書を、私製証書又は私製契約書と呼んでいます。
この私製証書という呼び方は、公正証書に対応する呼び方なのです。すなわち、私人間(公務員以外の普通の人のこと)で作った証書が、私製証書いうわけです。では、公正証書というのは、公務員が作った証書か、ということになりますが、まさしく「公証人」という法務大臣によって任命された公務員が、当事者の依頼によって作成した証書です。
一般の契約書、すなわち私製証書でも十分用が足りるのに、どうして公正証書を作る必要があるのか、と思われる方もあるでしょう。
契約というのは、当事者の合意によって成立します。合意だけでいいのです。そうです、本来は契約書もいらないのです。しかし、契約というと必ず契約書を作成します。これは後になって、そんな合意はしなかった、などと争いになるのを防ぐために、契約が一定の合意の上で成立した事を証明するために作られるのです。
このように、契約書は契約が成立するために必要な書類ではなく、契約が成立したことを証明するために必要な証拠書類なのです。公証人という役人が、契約の成立に関与することによって、私製の契約書よりもさらに高い証明力が増すのです。しかし、公正証書が利用される最大の理由は、証明力を求めなされるのではなく、次に述べる「執行力」を活用するためです。
公正証書の執行力とは?
公正証書の最大の特色は、公正証書には執行力、すなわち強制執行をする力があることです。強制執行というのは、金を貸した相手が期限を過ぎても払わなかった場合にする差押さえとか競売とかを裁判所にやってもらうことです。
強制執行をしてもらうためには、普通は訴訟を起こして判決をもらったり、裁判所で調停や和解をして調停調書や和解調書などをもらわなければ、強制執行の申立てはできません。
このように、裁判所や公証人役場が債務の存在を明確にした文書によって、強制執行をすることが認められるものを「債務名義」といっています。公正証書が裁判の確定判決と同じように債務名義として認められるということが、公正証書の効力として重視され、もっとも利用される理由なのです。
債務名義として認められるためには、二つの条件が必要。
では、どんな契約書でも、公正証書にすれば、債務名義としての効力が認められるかといえば、必ずしもそうとはいえないのです。
債務名義として認められるためには、二つの条件が必要です。
一つは、一定の金額の金銭の支払をすることを目的をする請求であること、です。その他にも、一定の数量の代替物とか有価証券の給付を目的とする請求とかが、あります(民事執行法22条1項5号)が、現実問題としては利用されることはまれですので、ここでは省略します。現実的には、「金銭の一定額の支払い」についての公正証書と考えていただいて結構です。たとえば、建物賃貸借契約を公正証書にした場合、家賃の支払は、金銭の一定額の支払ですから、家賃の滞納があれば、公正証書に基づいて強制執行ができますが、無断譲渡した場合には明け渡すという条項があっても、これは金銭の一定額の支払に該当しませんので、無断譲渡があったからといって、公正証書に基づいて明渡しの強制執行はできないということです。
他の一つは、債務者が債務を履行しない場合には強制執行しても文句はいいませんという陳述が記載されていることです。これを「執行認諾約款」といいます。一般には、「債務を履行しないときは直ちに強制執行を受けても異議のないことを認諾する」といように書きます。そして、この記載があれば、公正証書に記載されている一定額の金銭の支払いについて、強制執行をすることができるわけです。