移転しました。5秒でかわらないときは→http://jupiter2.webcrow.jp/frameessay4.htm


 
ホーム もくじ  幻影1         児童小説 童話詩 一般詩  他 占いなど 紹介
詩と童話のつれづれ☆jupiter☆へ

幽霊(ゆうれい)の話

戻る

深夜の四号室 深夜の階段 深夜の大鏡 深夜の自転車
お風呂に出る幽霊 人を飲み込む井戸 狐火 とんねる
山道のトンネル 眠り桜 花の鉢植え
魔法の薬屋シャノン  もどる
(幽霊になる薬&会いたくなる薬)
(まほうのくすりやシャノン
・ゆうれいになるくすり・あいたくなるくすり)
木村達也・新風舎B6判ハードカバー172P
amazon
(以下の話(はなし)は上の本にはのっていません。おもにこどものころ先輩(せんぱい)に聞(き)いた話(はなし)がもとになっています。先輩(せんぱい)もだれかに聞(き)いたのでしょうから、みなさんもどこかでこんな話(はなし)を聞(き)いたことがあるかもしれません。) 

深夜の四号室
(しんやのよんごうしつ)
 深夜の四号室1へ  深夜の四号室1Bへ  もどる
1
 ぼくは、こどものころ寮(りょう)(寄宿舎(きしゅくしゃ))で生活(せいかつ)をしていました。寮(りょう)は古(ふる)い木造建(た)築(もくぞうけんちく)で、みるからに幽霊屋敷(ゆうれいやしき)といったかんじでした。うすぐらい廊下(ろうか)をとおると、きいきいときしむ音(おと)がします。ふと見(み)ると、三号室(さんごうしつ)のとなりが、なぜか五号室(ごごうしつ)になっています。
「先輩
(せんぱい)、どうして四号室(よんごうしつ)はないのですか?」














1B
「ああ、四
(し)が死(し)とおなじ読(よ)み方(かた)で、縁起(えんぎ)が悪(わる)いからだ。」
ホテルなんかでも、四号室(よんごうしつ)がないというのはよくあることなんだそうです。
「深夜(しんや)に三号室(さんごうしつ)と五号室(ごごうしつ)のあいだを見(み)るなよ」
「え?どうして」
「四号室(よんごうしつ)があらわれるからさ、けっして中(なか)をのぞくなよ」
先輩(せんぱい)はこわいことを言(い)って、ぼくをおどかします。
つぎへ














2
 寮(りょう)は東(ひがし)の棟
(とう)、真(ま)ん中(なか)の棟(とう)、西(にし)の棟(とう)にわかれていました。ぼくは、西(にし)の棟(とう)の二階(にかい)の七号室(ななごうしつ)にいます。一階(いっかい)に一(いち)、二(に)、三(さん)、五号室(ごごうしつ)があります。
 ある日(ひ)、先輩(せんぱい)もみんなも実家
(じっか)へ帰(かえ)ってしまい、西(にし)の棟(とう)でただ一人(ひとり)、留守番(るすばん)になりました。だれもいない古(ふる)い寮(りょう)はさすがに不気味(ぶきみ)です。ぼくは、部屋(へや)から出(で)ないようにじっとしていました。自分(じぶん)の部屋(へや)にじっとしていれば幽霊(ゆうれい)も出(で)ないし、安全(あんぜん)だと思(おも)ったのです。しかし、どうしてもトイレに行(い)きたくなりました。
 トイレは一階の一号室(いちごうしつ)のとなりです。そこへ行(い)くためには階段(かいだん)をおりて、五(ご)、三(さん)、二(に)、一号室(いちごうしつ)の前(まえ)をとおらないといけません。しかたがないので、おそるおそる行(い)くことにしました。
つぎへ















2B
 階段(かいだん)は電気
(でんき)をつけても、不気味(ぶきみ)です。折(お)り返(かえ)しの踊(おど)り場(ば)に大(おお)きな鏡(かがみ)があります。深夜(しんや)にこれを見(み)てはいけないと、先輩(せんぱい)に言(い)われているので見(み)ないように歩(ある)きました。一階(いっかい)におりました。
 一階(いっかい)に行(い)くと、一部屋(ひとへや)だけ明
(あ)かりのついた部屋(へや)がありました。今日(きょう)はぼくしかいないはずなのにおかしいなあと思(おも)いました。それで、見(み)ないようにしてとおりすぎようとしました。
「キムラ〜、ちょっとよっていけ〜」
部屋(へや)の前(まえ)をとおろうとすると、先輩(せんぱい)の声(こえ)がします。今日(きょう)は実家(じっか)に帰(かえ)っていないはずなのにおかしいなあと思(おも)いました。
つぎへ
















3
 でも、先輩(せんぱい)を無視
(むし)するとあとで、大変(たいへん)です。部屋(へや)を見(み)ると、四号室(よんごうしつ)です。昼間(ひるま)、四号室(よんごうしつ)はありませんでした。ぼくは、背筋(せすじ)に冷(つめ)たいものが走(はし)りました。はやく逃(に)げだしたいと思(おも)ったのですが、脚(あし)ががくがくしてうまく逃(に)げられません。手(て)がかってにうごいて、ドアのノブをまわします。
「あ、ばか。部屋(へや)にはいるな」
(こころ)の中(なか)でそう思(おも)っても、体(からだ)が言(い)うことをききません。もう幽霊(ゆうれい)にあやつられているのかもしれません。中(なか)にはいると、先輩(せんぱい)はいませんでした。かわりにやさしそうなお兄(にい)さんがいました。きっと先輩(せんぱい)とおなじくらいの学年(がくねん)です。ぼくはすこし安心(あんしん)しました。でも、存在感(そんざいかん)のないかげのうすそうな人(ひと)でした。
つぎへ


















3B
「こんなさびしいところにようこそ。お茶
(ちゃ)でもいかが」
直接
(ちょくせつ)心に響(ひび)いてくる声(こえ)です。でも、ぼくは首(くび)をよこにふりました。はやくここから逃(に)げたいと思(おも)いました。
「じゃあいっしょに近
(ちか)くの神社(じんじゃ)にあそびにいかないかい?」
ぼくは首(くび)をよこにふりました。こんな夜中
(よなか)にそんなところに行(い)ったら何(なに)が出(で)るかわかりません。
「そう、やっぱり…。だれもぼくの友達
(ともだち)になってくれないんだ…」
やさしそうなお兄(にい)さんは泣
(な)きながらそう言(い)いました。ぼくはすこし気(き)の毒(どく)になりました。ちょっとだけなら行(い)ってあげてもいいかなあと思(おも)いました。
「ちょっとだけなら…・」
そう言(い)いかけたときです。つぎへ

















4
「キムラ〜、今(いま)、帰(かえ)ったぞ〜」
先輩(せんぱい)の大(おお)きな声(こえ)がしました。ぼくははっとしました。すると、なにか目覚
(めざ)めた感(かん)じで手(て)も脚(あし)も自由(じゆう)に動(うご)くようになりました。気(き)がつくと、ぼくは階段(かいだん)をおりた三号室(さんごうしつ)と五号室(ごごうしつ)のあいだで、ぼうっと立(た)っていました。
「キムラ、なにこんなところで、ぼうっと立(た)っているんだ?まさか、四号室(よんごうしつ)を見(み)たのか?」
ぼくはうなずきました。
「じゃあ、四号室(よんごうしつ)の幽霊(ゆうれい)に近(ちか)くの神社(じんじゃ)に遊(あそ)びにいこうとさそわれなかったか?」
ぼくは、うなずきました。
「あぶなかったなあ。あやうく幽霊(ゆうれい)に地獄
(じごく)につれていかれるところだったなあ」
つぎへ
















4B
 どうやらぼくは、先輩(せんぱい)がたまたま帰(かえ)ってきて声(こえ)をかけてくれたから助
(たす)かったようです。深夜(しんや)に三号室(さんごうしつ)と五号室(ごごうしつ)のあいだを見(み)るなといわれたのに、見(み)てしまったので、幽霊(ゆうれい)にとりつかれたようです。先輩(せんぱい)の話(はなし)によると、この古(ふる)い幽霊屋敷(ゆうれいやしき)のような寮(りょう)が建(た)(た)つまえに、さらに古(ふる)い寮(りょう)がここに建(た)(た)っていたそうです。それを壊(こわ)して、ぼくの住(す)んでいる寮(りょう)はできたそうです。
 そのもう一つ前(まえ)の寮(りょう)にはちゃんと四号室(よんごうしつ)があったそうです。しかし、そこに住(す)んでいる人(ひと)は首
(くび)をつって死(し)んだそうです。なんでも勉強(べんきょう)や友達(ともだち)のことに悩(なや)んでの末(すえ)のことだったようです。四号室(よんごうしつ)は霊(れい)にとりつかれて死ぬといううわさがたちました。それで、新(あたら)しい寮(りょう)を建(た)(た)てるとき四号室(よんごうしつ)は作(つく)らなかったということです。寮(りょう)にそんな悲(かな)しい歴史(れきし)があるなんて知(し)りませんでした。
もどる






















深夜の階段(しんやのかいだん)     もどる
 (りょう)の階段(かいだん)は途中(とちゅう)で180度(ど)(お)れ曲(ま)がっています。そこには踊(おど)り場(おどりば)とよばれる場所(ばしょ)があります。
「深夜(しんや)の階段(かいだん)は恐
(おそ)ろしい。」
先輩(せんぱい)
(せんぱい)は言(い)(い)います。
「いいか、真夜中
(まよなか)の階段(かいだん)は数(かず)をかぞえるな」
「どういうことですか」
「行(い)きと帰(かえ)りは段数
(だんすう)が違(ちが)うからだ。一段多(いちだんおお)い階段(かいだん)の最後(さいご)の段(だん)を踏(ふ)むと、黄泉(よみ)の国(くに)(死後(しご)の国)へ行(い)くぞ」
先輩(せんぱい)はいつも怖
(こわ)いことを言(い)うなあと思(おも)いました。
つぎへ















深夜の階段(しんやのかいだん) B
  ある日(ひ)、トイレにいったとき階段(かいだん)の数(かず)を数(かぞ)えながらおりました。踊(おど)り場(ば)も入(い)れると全部
(ぜんぶ)で二十五段(にじゅうごだん)ありました。二階(にかい)の部屋(へや)まで帰(かえ)るとき、ついつい数(かず)を数(かぞ)えてしまいました。先輩(せんぱい)から数(かぞ)えるなって言(い)われていたのに。
「23,24,25・・・」
ぼくはどきりとしました。もう一段
(いちだん)あります。これが先輩(せんぱい)の言(い)っていた黄泉(よみ)の国(くに)への階段(かいだん)だとおもいました。ぼくは足(あし)をとめました。そして階段(かいだん)をもういっかいおりると、こんどは数(かぞ)えずにのぼりました。走って三段(さんだん)とばしでのぼったのです。これならかぞえても十段(じゅうだん)くらいで黄泉(よみ)の国(くに)への階段(かいだん)はあらわれません。深夜(しんや)、階段(かいだん)の数(かず)が何段(なんだん)あるか数(かぞ)えてはいけません。行(い)きと帰(かえ)りの段数(だんすう)が違(ちが)うときは、一番(いちばん)最後(さいご)の段(だん)を踏(ふ)んではいけません。もどる




















深夜の大鏡(しんやのおおかがみ)     もどる
1
 寮
(りょう)の階段(かいだん)は途中(とちゅう)で180度(ど)(お)れ曲(ま)がっています。そこには踊(おど)り場(おどりば)とよばれる場所(ばしょ)があります。踊(おど)り場(ば)のつきあたりには大人(おとな)の男性(だんせい)の身長(しんちょう)ほどの大鏡(おおかがみ)がありました。先輩(せんぱい)は、その大鏡(おおかがみ)を夜中(よなか)に見(み)るなと言(い)います。なんでも鏡(かがみ)に吸(す)い込(こ)まれ、黄泉(よみ)の国(くに)(死後(しご)の世界(せかい))につれていかれてしまうそうです。夜中(よなか)に鏡(かがみ)を見(み)ると幽霊(ゆうれい)が映(うつ)っているという話(はなし)はよく聞(き)きます。暗(くら)いところで鏡(かがみ)を見(み)ると、変(へん)な風(ふう)に見(み)えるときがあるので、幽霊(ゆうれい)とまちがえてもしかたありません。しかし、黄泉(よみ)の国(くに)へつれていかれるというのはどうでしょう。すこし怖(こわ)い感(かん)じがしました。
つぎへ














1B
 ぼくは夜中(よなか)にトイレに行(い)きました。階段(かいだん)をおりた踊(おど)り場(ば)のつきあたりに大鏡(おおかがみ)があります。こわごわのぞきます。階段(かいだん)をおりるぼくの姿(すがた)が映(うつ)っています。べつに変(へん)なところはありません。
「なんだ、べつに普通
(ふつう)じゃん…」
ぼくはそう思(おも)って、180度ターンして、階段(かいだん)の下半分
(したはんぶん)をおりようとしました。そのとき寒気(さむけ)のようなものを感(かん)じました。 ぼくは、霊感体質(れいかんたいしつ)というのか、そういったものの存在(そんざい)を敏感(びんかん)に感(かん)じとってしまうのです。
「ふりかえってはいけない」
ぼくは心(こころ)の中(なか)でそうつよく思(おも)いました。恐(おそ)ろしいものがあるにちがいない。そうした確信(かくしん)がありまた。
つぎへ


















2
 しかし、体
(からだ)がかってにうしろをふりむこうとします。すでに、霊(れい)にとりつかれていたのかもしれません。ふりむくと、鏡(かがみ)には見(み)たことのない女(おんな)の子(こ)が映(うつ)っていました。この鏡(かがみ)は一度(いちど)とおりすぎて振(ふ)り返(かえ)って見(み)ると霊(れい)が現(あらわ)れるようです。
「こっちにこない?」
女(おんな)の子(こ)はにっこりとわらってそう言(い)いました。
ぼくは首
(くび)をよこにふりました。体(からだ)がかってに鏡(かがみ)のほうに行(い)こうとします。
「ねえ、わたし、きれい?」
「きれいだけど…」
「ほんとうに?」
つぎへ


















2B
「ほんとうだよ」
「こっちにこない?」
女(おんな)の子(こ)はもう一度(いちど)いいました。そしてしくしくと泣
(な)きはじめました。
「わたし、ひとりぼっちなの。だれもあそんでくれないの」
ぼくは女(おんな)の子(こ)が気(き)の毒
(どく)になってきました。ちょっとだけなら遊(あそ)んであげてもいいかなって思(おも)いました。
「どうして、だれもあそんでくれないの?」
ぼくは思(おも)い切(き)って聞(き)いてみました。女(おんな)の子(こ)はこたえませんでした。
つぎへ
















3
 しばらく沈黙
(ちんもく)がありました。ぼくははやくこの場(ば)から逃(に)げようとしましたが、脚(あし)が言(い)うことをききません。ぼくは鏡(かがみ)から目(め)をそらせようとしました。
「だれも、あそんでくれないのは、わたしがこんな姿
(すがた)だからよ」
鏡(かがみ)の中(なか)の女(おんな)の子(こ)の姿(すがた)は恐(おそ)ろしい幽霊(ゆうれい)の姿(すがた)にかわりました。ぼくは心臓
(しんぞう)が飛(と)び出(で)るかと思(おも)うくらいびっくりしました。
 血走
(ちばし)った目(め)、耳(みみ)まで裂(さ)けた大)おお)きな口(くち)。女(おんな)の子(こ)はきつねの霊(れい)にとりつかれているのかもしれないと思(おも)いました。
 ぼくはうしろを振(ふ)り向
(む)いて鏡(かがみ)に背中(せなか)をむけると一目散(いちもくさん)に走(はし)り出(だ)しました。そして、ふとんをかぶるとぶるぶるふるえました。トイレにいくのはがまんして、朝(あさ)まで部屋(へや)にいました。ぼくは翌朝よくあさ)先輩(せんぱい)にそのことを話(はな)しました。
つぎへ


















3B
 昔(むかし)、寮(りょう)の近(ちか)くに女(おんな)の子(こ)が住(す)んでいたそうです。しかし、女(おんな)の子(こ)はある日(ひ)突然(とつぜん)きつねの霊(れい)にとりつかれてしまったそうです。お祓
(はら)いをしてもらいましたが、効果(こうか)がなく、だんだん恐(おそ)ろしい姿(すがた)にかわっていったそうです。目(め)はつり上(あ)がり血走(ちばし)ってきました。口は大(おお)きく裂(さ)け、それが耳(みみ)までとどくようになったそうです。友達(ともだち)も女(おんな)の子(こ)から離(はな)れていきました。女(おんな)の子(こ)は鏡(かがみ)を見(み)ながら、毎日(まいにち)(なげ)き悲(かな)しんでいたそうです。きつねの霊(れい)はだんだん力を増(ま)し、ついに女(おんな)の子(こ)は亡(な)くなってしまいました。美(うつ)しくなりたいという女(おんな)の子(こ)の霊(れい)は鏡(かがみ)にとりつき、寮(りょう)の鏡(かがみ)にもときどき現(あらわ)れるようになったそうです。ぼくは、そんな悲(かな)しい話(はなし)があるなんて知(し)りませんでした
もどる





















深夜の自転車(しんやのじてんしゃ)  もどる
1
 深夜(しんや)お腹(なか)がすいてしかたがありません。寮(りょう)の近(ちか)くのファミレスへ夜食(やしょく)を食(た)べにいきます。田舎(いなか)の寂(さび)しい道(みち)は深夜(しんや)だれも歩(ある)いていないことがほとんどです。街灯(がいとう)もすくなくかなり暗(くら)い感(かん)じがします。
ある夜
(よる)、ぼくは一人(ひとり)で道(みち)をあるいていました。すると、赤(あか)い小(ちい)さな自転車(じてんしゃ)に乗(の)った女(おんな)の子(こ)が道(みち)を走(はし)っています。
 こんな深夜(しんや)に小(ちい)さな女(おんな)の子(こ)の自転車(じてんしゃ)は異様
(いよう)です。ぼくは寒気(さむけ)がしました。霊感体質(れいかんたいしつ)というか、そういうものを敏感(びんかん)に感(かん)じるのです。
つぎへ















1B
これは、おかしいぞ・・・
女(おんな)の子(こ)は自転車(じてんしゃ)をとめました。不気味
(ぶきみ)な雰囲気(ふんいき)がただよっています。
「おにいちゃん、自転車(じてんしゃ)にのる?」
ぼくは、首
(くび)をよこにふりました。
「のらないの?」
こんどは首(くび)をたてにふりました。
「つまんないの。だれもわたしと遊
(あそ)んでくれない…」
つぎへ

















2
女(おんな)の子(こ)は泣(な)きはじめました。ぼくは女(おんな)の子(こ)のことが気(き)の毒
(どく)になりました。
「ちょっとだけなら…」
そう言(い)いかけたとき、女(おんな)の子(こ)は自転車(じてんしゃ)にのって行(い)ってしまいました。
そのとき、ヘッドライトを光
(ひか)らせて大型(おおがた)トラックが走ってきました。トラックは女(おんな)の子(こ)に気(き)がつかないのか、スピードをゆるめません。
「おーい、あぶないぞ」
つぎへ


















2B
ぼくは力
(ちから)のかぎりさけびました。しかし、女(おんな)の子(こ)はとまりませんでした。トラックもスピードをゆるめません。
「あっ!」
そうさけんだとき、トラックは急
(きゅう)ブレーキをかけとまりました。ブレーキのすごい音(おと)がしました。しかし、ぶつかった音(おと)はしません。女(おんな)の子(こ)は幻(まぼろし)のように消(き)えてしまったようです。運転手(うんてんしゅ)は出(で)てきてあたりをみまわしましたが、きつねにつままれたように不思議(ふしぎ)な顔(かお)をして行(い)ってしまいました。
 帰
(かえ)ってから先輩(せんぱい)(せんぱい)にそのことを話(はな)すと、それは道(みち)で亡(な)くなった女(おんな)の子(こ)の幽霊(ゆうれい)がでているのかもしれないなあと言(い)いました。
ぼくは、幼
(おさな)い幽霊(ゆうれい)のことをとても気(き)の毒(どく)に思(おも)いました。
もどる
























お風呂に出る幽霊(おふろにでるゆうれい)     もどる
1
 ぼくは、学生
(がくせい)のころ古(ふる)い寮(りょう)(寄宿舎(きしゅくしゃ))に住(す)んでいました。その寮(りょう)は近所(きんじょ)の人(ひと)たちから幽霊屋敷(ゆうれいやしき)とよばれていました。戦前(せんぜん)に建(た)てられたその古(ふる)い木造建築(もくぞうけんちく)は、あちことが朽(く)ちていまにも崩(くず)れ落(お)ちそうでした。蔦(つた)がからまったその姿(すがた)はいかにも幽霊(ゆうれい)が出(で)そうな不気味(ぶきみ)な雰囲気(ふんいき)をかもし出(だ)していました。
 寮(りょう)には大
(おお)きなお風呂(ふろ)があります。10人(にん)くらいは一度(いちど)に入(はい)れるお風呂(ふろ)で、寮(りょう)の学生(がくせい)が交代(こうたい)でそこに入(はい)ります。夜(よる)になると、お風呂(ふろ)は学生(がくせい)でいっぱいになりました。
つぎへ
















1B
風呂(ふろ)の掃除
(そうじ)は早朝(そうちょう)におこないます。新入生(しんにゅうせい)は掃除(そうじ)のやりかたがわからないので、寮(りょう)の先輩(せんぱい)(せんぱい)とふたりでやります。寮(りょう)の先輩(せんぱい)といっても、新入生(しんにゅうせい)のぼくはまだ寮(りょう)にはいったばかりなので、知(し)らない人(ひと)ばかりでした。ぼくは風呂掃除当番表(ふろそうじとうばんひょう)を見(み)ました。そこにはやはり知(し)らない先輩(せんぱい)の名前(なまえ)が書(か)いてありました。
「やはり、知(し)らない名前(なまえ)だなあ・・・」
ぼくは不安
(ふあん)になりました。しかし、風呂(ふろ)掃除(そうじ)のときは先輩(せんぱい)のほうから新入生(しんにゅうせい)を迎(むか)えに行(い)くことになっていると聞(き)いて少(すこ)し安心(あんしん)しました。
つぎへ


















2
 それなら、部屋(へや)で待(ま)っていればよく、先輩(せんぱい)をさがす必要(ひつよう)がありません。何日(なんにち)かがすぎました。 
 それでも寮(りょう)は人数
(にんずう)が多(おお)いので、その先輩(せんぱい)がどの先輩(せんぱい)なのかまだわかりませんでした。まあ、部屋(へや)で待っていればいいやと思(おも)いました。明日(あす)はいよいよ早朝(そうちょう)に知(し)らない先輩(せんぱい)とふたりで風呂(ふろ)掃除(そうじ)です。寝坊(ねぼう)して叱(しか)られないように早(はや)めに寝(ね)ておこうと思(おも)いました。ぼくは部屋(へや)の電気(でんき)を消(け)して寝(ね)ました。
どのくらい時間
(じかん)が経(た)ったのでしょうか。突然(とつぜん)、部屋(へや)のドアをたたく音(おと)が聞(き)こえます。ぼくはまだねぼけまなこでした。
「まずい、ねぼうしたのかな」
つぎへ

















2B
ぼくはぼんやりした頭
(あたま)でそう思(おも)いました。
「キムラくん、風呂(ふろ)掃除(そうじ)行(い)くよ」
小(ちい)さな声(こえ)がドアのむこうから聞(き)こえます。きっと寮(りょう)の先輩(せんぱい)に違(ちが)いありません。
「すみません、ねぼうして・・・」
ぼくは、そう言(い)ってとびおきました。まだあたりは真(ま)っ暗
(くら)です。
「おかしいなあ、まだ真(ま)っ暗(くら)じゃないか。こんなに早(はや)くから風呂(ふろ)掃除(そうじ)ってするのかなあ・・・」
ぼくはすこし変(へん)に思(おも)いましたが、先輩(せんぱい)の言(い)うことは絶対
(ぜったい)です。ぼくはドアを開(あ)けました。そこには見(み)たこともない先輩(せんぱい)がいました。
つぎへ
















3
「先輩(せんぱい)おはようございます」
「ああ、いくよ」
なんだか小(ちい)さな声(こえ)で存在感(そんざいかん)のない先輩(せんぱい)でした。
 背
(せ)も小(ちい)さく、なんだかひどく古(ふる)い服(ふく)を着(き)ています。まるで戦争中(せんそうちゅう)の兵隊(へいたい)さんの服(ふく)みたいだと思(おも)いました。でも、先輩(せんぱい)になにかを質問(しつもん)するのは失礼(しつれい)にあたる気(き)がして黙(だま)っていました。
まわりは、まだ真(ま)っ暗(くら)です。寮(りょう)はしんとして人気
(ひとけ)がありません。みんな寝静(ねしず)まっているようです。古(ふる)い寮(りょう)は本当(ほんとう)に幽霊屋敷(ゆうれいやしき)のようで、暗(くら)い中(なか)を歩(ある)くのはひどく不気味(ぶきみ)な感(かん)じがしました。
つぎへ

















3B
ときどき白
(しろ)いものがふわふわっととおりすぎたような気(き)がしてびくっとします。先輩(せんぱい)は怖く(こわ)ないのだろうかと思(おも)いました。いや、先輩(せんぱい)は本当(ほんとう)はおばけかもしれない。ふりむくとオオカミのような顔(かお)をしているかもしれない。いろいろな想像(そうぞう)が頭(あたま)をかけめぐり、だんだん怖(こわ)くなってきます。
「じゃあ、やるよ」
先輩(せんぱい)がブラシをもって、お風呂(ふろ)のなかに入(はい)っていきます、ぼくも、それについて入(はい)っていきました。先輩(せんぱい)がお風呂(ふろ)の栓
(せん)をぬくと、お湯(ゆ)がだんだん少(すく)なくなっていきます。ぼくは一生懸命(いっしょうけんめい)ブラシでお風呂(ふろ)を磨(みが)きました。
つぎへ

















4
「お風呂(ふろ)に出(で)る幽霊(ゆうれい)の話(はなし)を知(し)っているかい?」
「いいえ、知(し)りません」
「日本人(にほんじん)はお風呂(ふろ)好(ず)きでね。戦争(せんそう)でジャングルをかけめぐって戦(たたか)っていると、お風呂(ふろ)に入(はい)りたいと思(おも)うんだ。死(し)ぬ前(まえ)に一度(いちど)ゆっくり入(はい)ってみたいとね」
「そんなもんですか」
「ああ、ここは昔
(むかし)兵隊(へいたい)さんたちの寮(りょう)として使(つか)われていたから。真夜中(まよなか)ときどき湯船(ゆぶね)に幽霊(ゆうれい)がつかっていることがあるよ」
つぎへ

















4B
ぼくは驚
(おどろ)きました。
「え?そうなんですか」
「ああ、でもじゃましちゃいけないよ。悪
(わる)い幽霊(ゆうれい)じゃあないんだ。お風呂(ふろ)くらいゆっくりつからせてあげればいいよ」
先輩(せんぱい)はそう言(い)って笑
(わら)いました。そんなことを言(い)っている間(あいだ)に風呂(ふろ)掃除(そうじ)は終(お)わりました。べつに難(むずか)しいことはなく、ただ風呂(ふろ)と床(ゆか)をブラシで磨(みが)いただけでした。まだあたりは真(ま)っ暗(くら)です。ちょっと早(はや)く掃除(そうじ)に来(き)すぎたのではないかと思(おも)いました。
「ちょっと、暑
(あつ)くなったからそこの裏山(うらやま)に行(い)かないか。涼(すず)しいよ」
先輩(せんぱい)がそう言(い)いました。外
(そと)はまだ真(ま)っ暗(くら)です。たしかに風(かぜ)が吹(ふ)いて涼(すず)しそうですが、とても怖(こわ)い感(かん)じがしました。
つぎへ


















5
「いえ、先輩(せんぱい)。もう疲(つか)れたから部屋(へや)に帰(かえ)って寝(ね)ます。」
「そうか、残念(ざんねん)だ」
先輩(せんぱい)は寂(さび)しそうにそう言(い)いました。ぼくはいっしょに行(い)ってもいいかなという気持(きも)ちになりました。
「せ・・・」
先輩(せんぱい)と言(い)いかけたとき、先輩(せんぱい)はもう消(き)えていなくなっていました。
 ぼくは、部屋(へや)に帰(かえ)りました。そして、また寝(ね)ました。しばらくすると、また部屋(へや)のドアをたたく音(おと)がします。おきるとあたりは明(あか)るくなっていました。
「あれ?いつのまに明(あか)るくなったんだろう?」
つぎへ
















5B
ぼくはねぼけまなこで起(お)きました。
「キムラくん、風呂(ふろ)掃除(そうじ)行(い)くよ」
ドアの外(そと)から声(こえ)がします。ぼくは不思議
(ふしぎ)に思(おも)いました。風呂(ふろ)掃除(そうじ)ならさっき真(ま)っ暗(くら)ななかしたばかりです。ぼくはドアを開(あ)けて言(い)いました。
「先輩(せんぱい)、風呂(ふろ)掃除(そうじ)ならさっきやったじゃないですか」
そう言(い)って、驚
(おどろ)きました。さっきと違(ちが)う先輩(せんぱい)が立(た)っています。
「今日(きょう)、いっしょに掃除(そうじ)だよ。行(い)くよ」
「あれ?でも」
つぎへ



















6
ぼくは不思議(ふしぎ)に思(おも)いながらついていきました。お風呂(ふろ)につくと先輩(せんぱい)がなかに入(はい)っていきます。ぼくもいっしょについていきました。
「あれ?お風呂(ふろ)掃除(そうじ)がしてある・・・」
先輩(せんぱい)がそうさけびました。やはり、さっき掃除(そうじ)したのは夢(ゆめ)じゃなかったんだと思(おも)いました。
「このお風呂(ふろ)にはときどき幽霊(ゆうれい)が出(で)るらしいんだ・・・」
先輩(せんぱい)がそう言(い)いました。
「ひょっとして昔(むかし)の兵隊(へいたい)さんみたいな服(ふく)を着(き)た幽霊(ゆうれい)ですか?」
つぎへ
















6B
「よく知(し)っているね」
「ええ、ぼくさっきいっしょに掃除(そうじ)しました」
「裏山(うらやま)へ行(い)こうとか言(い)われなかったかい?」
「ええ、言(い)われましたけど・・・」
「行(い)かなくてよかったね。帰(かえ)ってこない新入生(しんにゅうせい)ときどきいるから・・・」
ぼくは驚(おどろ)きました。どうやらさっきの先輩(せんぱい)はお風呂(ふろ)に出(で)る幽霊(ゆうれい)だったようです。いっしょについていかなくてよかったと思(おも)いました。
もどる

























人を飲み込む井戸(ひとをのみこみいど)     もどる
1
 ぼくは学生
(がくせい)のころ古(ふる)い寮(りょう)に住(す)んでいました。寮(りょう)はあちこち傷(いた)んでいて、近所(きんじょ)の人(ひと)からは幽霊屋敷(ゆうれいやしき)と呼(よ)ばれていました。
ある晩
(ばん)、寮(りょう)の窓(まど)から裏庭(うらにわ)を見(み)(み)ると、古(ふる)い井戸(いど)があるのに気(き)がつきました。四角(しかく)い木(き)の枠(わく)が地上(ちじょう)一メートルくらいまでつくってあります。それは、ぼうぼうに伸(の)びた草(くさ)に囲(かこ)まれていました。朽(く)ちた木製(もくせい)の井戸(いど)は不気味(ぶきみ)な感(かん)じがします。なかをのぞいてみたいような気(き)もしますが、怖(こわ)いような気(き)もします。でも、なかはどうなっているのだろうか気(き)になって仕方(しかた)がありません。
つぎへ


















1B
ぼくは窓(まど)から外
(そと)へ出(で)ました。心(こころ)のなかで、「見(み)てはいけない」という声(こえ)がします。でも、体(からだ)はその声(こえ)に反(はん)して、どんどん井戸(いど)のほうへ近(ちか)づきます。いけないと思(おも)いながら、ぼくは井戸(いど)のなかをのぞいてしまいました。
 井戸(いど)のなかはまっくらでなにもありませんでした。でも、背筋
(せすじ)が寒(さむ)くなるようなぞっとするような悪寒(おかん)が走(はし)りました。
 ぼくは帰
(かえ)ろうとしました。いつのまにかあたりは真(ま)っ暗(まっくら)になっていました。急(きゅう)に暗(くら)くなるなんて不思議(ふしぎ)です。ぼくは不安(ふあん)になってきました。手探(てさぐ)りで少(すこ)し歩(ある)きます。
つぎへ
















2
 すると、すぐに壁
(かべ)に当(あ)たってしまいました。壁(かべ)はぬるぬると湿(しめ)っています。壁(かべ)に当(あ)たったので、振(ふ)り返(ふりかえ)ってもとにもどりました。しかし、そこにもう井戸(いど)はありませんでした。
「おかしい・・・。井戸(いど)の四角(しかく)い枠(わく)が消(き)えた」
ぼくは途方
(とほう)にくれました。どうやって帰(かえ)っていいのかわからなくなりました。どっちを向(む)いても真(ま)っ暗(まっくら)ですぐに壁(かべ)があります。ぼくは空(そら)をあおぎ見(み)ました。
「変
(へん)だな・・・」
不思議(ふしぎ)なことに気(き)がつきました。星
(ほし)が空(そら)の真(ま)ん中(なか)あたりに少(すこ)しでています。そのまわりは真(ま)っ暗(くら)なのです。空(そら)の中央(ちゅうおう)の丸(まる)い部分(ぶぶん)だけ星(ほし)が見(み)えます。
つぎへ
















2B
「まさか・・・」
僕(ぼく)は思(おも)いました。ぼくは井戸(いど)のなかから空(そら)を見上(みあ)げているのではないか?そう考えると、すぐ壁(かべ)があるのも、空(そら)の中央(ちゅうおう)にだけ星(ほし)があるのも納得
(なっとく)できます。さっき、井戸(いど)をのぞいた瞬間(しゅんかん)に、井戸(いど)のなかに移動(いどう)したのでしょうか。不思議(ふしぎ)なこともあるものだと思(おも)いました。それと同時(どうじ)にひどく怖(こわ)くなってきました。ぼくは井戸(いど)のなかに閉(と)じこめられてしまったようです。
夜になりました。暗(くら)い井戸(いど)の底
(そこ)でぼくは震(ふる)えていました。「助(たす)けてくれ」と叫(さけ)んでみましたが、なにもこたえはありませんでした。

もどる






















狐火(きつねび)     もどる
1
 ぼくが小学校五年生(しょうがっこうごねんせい)くらいのときの話(はなし)です。ぼくは山(やま)の中(なか)の小(ちい)さな小学校(しょうがっこう)に通(かよ)っていました。みさきちゃんという近所(きんじょ)の女(おんな)の子(こ)がいました。夏休(なつやす)みが近(ちか)づいたある日(ひ)、友達(ともだち)のみさきちゃんといっしょに帰(かえ)り道(みち)を歩(ある)いていました。道(みち)がひとつしかないので、帰(かえ)り道(みち)は、どうしても村(むら)のお墓(はか)の前(まえ)を通(とお)らなければなりません。家(いえ)が学校(がっこう)から遠(とお)いので、もうあたりはうす暗(ぐら)くなっています。
「たっちゃん、あれなに?」
つぎへ















1B
みさきちゃんが指差
(ゆびさ)す先(さき)に、ふわふわと宙(ちゅう)にうかんで不気味(ぶきみ)に燃(も)えるものがあります。赤(あか)くなったり、紫色(むらさきいろ)になったり、青色(あおいろ)になったりして、お墓(はか)のまわりをまわっています。
「狐火
(きつねび)だ。みさきちゃん、指差(ゆびさ)しちゃだめ」
ぼくは、あわててみさきちゃんの手
(て)をつかんで下(お)ろしました。
 狐火(きつねび)を見
(み)ただけでも不吉(ふきつ)なのに、指(ゆび)なんか差(さ)したらどうなるかわかりません。
「そうだ、みさきちゃん、神社
(じんじゃ)においのりに行(い)こう。悪(わる)いことがおこらないように」
つぎへ
















2
「まあ、たっちゃん、おくびょうね。だいじょうぶよ、狐火(きつねび)なんか。それにもううす暗(ぐら)くて、神社(じんじゃ)へ行(い)く道(みち)のほうが不気味(ぶきみ)よ」
「みさきちゃん、今(いま)から神社(じんじゃ)へ行(い)くのはこわいんだ?」
「こわくなんかないわ」
みさきちゃんが賛成
(さんせい)してくれたようなので、ふたりで神社(じんじゃ)へ行(い)って、悪(わる)いことがおこらないようおいのりすることになりました。
 山(やま)に囲
(かこ)まれた村は日(ひ)が暮(く)れるのがとても早(はや)いです。神社(じんじゃ)へのぼる道(みち)はかなり暗(くら)くなっていました。静(しず)かな森(もり)にふたりの足音(あしおと)がひびきます。
 ときどき、なんの鳴き声
(なきごえ)なのかわからない声(こえ)が森(もり)にこだまします。そのたびごとに、体(からだ)がびくっとしました。
つぎへ
















2B
 山(やま)をのぼって、神社(じんじゃ)の階段
(かいだん)へたどり着(つ)いたころ、月(つき)がかがやきはじめました。あたりはもうすっかり真(ま)っ暗(くら)です。月に照(て)らされた神社(じんじゃ)の鳥居(とりい)はくずれてくちはてていました。
「やれやれ、ずいぶん荒
(あ)れているなあ。だれも手入(てい)れしていないみたいだ」
「ねえ、たっちゃん、今
(いま)からこの階段(かいだん)のぼるの?」
神社(じんじゃ)の階段(かいだん)は見(み)たところ、百段以上
(ひゃくだんいじょう)ありそうです。
「みさきちゃん、ここで待
(ま)っていてくれる?」
「こんなところに女(おんな)の子(こ)をおいていく気(き)?」
つぎへ
















3
みさきちゃんが賛成(さんせい)してくれたようなので、ふたりで神社(じんじゃ)の階段(かいだん)をのぼることになりました。夜
(よる)の神社(じんじゃ)の階段(かいだん)は不気味(ぶきみ)です。階段(かいだん)をのぼると、すぐに大(おお)きな石灯籠(いしどうろう)が左右(さゆう)にあって、本殿(ほんでん)への道(みち)が続(つづ)いていました。ぼくはなにか寒気(さむけ)を感(かん)じました。
「なんかここはすごく霊気
(れいき)を感(かん)じる。早(はや)くおいのりして帰(かえ)ろう」
「だから、来
(こ)なければよかったのじゃないの」
「もう来
(き)ちゃったんだから仕方(しかた)ないよ」
そのとき、今(いま)歩(ある)いてきた下
(した)のほうに、光(ひか)るものを見(み)つけました。なにかの光(ひかり)は一列(いちれつ)になって近(ちか)づいてくるようです。
つぎへ

















3B
「やばい、みさきちゃん、なにかが宙
(ちゅう)にういて近(ちか)づいてくる。かくれて」
二人(ふたり)は、大(おお)きな石灯籠(いしどうろう)のかげにかくれて、下(した)をそっと見(み)ました。
「なに?なに?なんなのよ?」
「どうやら狐火(きつねび)が一列(いちれつ)にならんで、階段(かいだん)をのぼってくるらしい」
「ええ、なんで?私達
(わたしたち)のあとをついてきたの?見(み)つからない?」
「なんでついてきたのかわからない。とにかく見(み)つからないように」
二人(ふたり)は身
(み)をかたくして、石灯籠(いしどうろう)のおくにかくれました。狐火(きつねび)は静(しず)かに、歩(ある)くような速(はや)さで階段(かいだん)をのぼってきます。
「うわ、きた」
みさきちゃんが、小(ちい)さくそうさけぶと、二人(ふたり)はできるだけ体(からだ)を小(ちい)さくしてかくれました。
つぎへ

















4
 しばらく目
(め)を閉(と)じていたぼくは、目(め)をあけてそっと様子(ようす)をうかがってみました。
 狐火(きつねび)は、ぼくたちのほうへは来(こ)ないで、石灯籠(いしどうろう)の前(まえ)を通(とお)り過(す)ぎていきます。そして、神社(じんじゃ)の本殿
(ほんでん)のほうへむかっているようです。
「みさきちゃん、狐火(きつねび)は本殿(ほんでん)へ行(い)くみたいだよ」
「私達(わたしたち)をおいかけてきたのではないの?」
「ちがうみたいだね。でも、見(み)つかったら、とりつかれるかもしれない」
「ねえ、ねえ、たっちゃん、よく見(み)ると、うすく人間
(にんげん)みたいに見(み)えるよ」
「狐火(きつねび)をじっと見(み)ちゃだめだって」
つぎへ



















4B
「ほらほら、たっちゃん、見(み)て。あれ、亡(な)くなった酒屋
(さかや)のおばあちゃんじゃないの?」
「本当(ほんとう)だ。どことなく見覚
(みおぼ)えがある」
「ほらほら、あれ、最近
(さいきん)(な)くなったばかりの近所(きんじょ)のおじいちゃん」
「本当
(ほんとう)だ。まずいもの見(み)ちゃったなあ。おむかえがきたりしないかなあ」
「おいのりすればだいじょうぶって聞(き)いたわ」
最後尾
(さいこうび)の狐火(きつねび)が通(とお)り過(す)ぎていきました。ぼくとみさきちゃんは、あたりをきょろきょろ見回(みまわ)しました。
「よし、もう来(こ)ないみたいだから、おいのりして早(はや)く帰(かえ)ろう」
「ええ、そうね」
つぎへ

















5
 ふたりは、そろりそろりと歩(ある)き始めました。どうやら、だいじょうぶのようです。神社(じんじゃ)の本殿(ほんでん)へ行(い)くと、扉
(とびら)はしまっていました。ふたりはほっとしました。ぱんぱんと手(て)を打ってから、おいのりをしました。
「霊
(れい)は、お墓(はか)と神社(じんじゃ)の間(あいだ)をさまよっているのかなあ。みさきちゃん、帰(かえ)るよ」
ぼくが、そう呼(よ)びかけても、みさきちゃんが動
(うご)きません。
「みさきちゃん?」
ぼくは、心配
(しんぱい)になってみさきちゃんのほうを見(み)ました。すると、みさきちゃんの顔(かお)はこわばってかたくなり、目(め)がつりあがっていました。まるで、狐(きつね)のようです。
つぎへ

















5B
「うわ、なになに、みさきちゃん。狐(きつね)になっちゃったの?」
ぼくは、とつぜんの変身
(へんしん)に恐怖(きょうふ)を感(かん)じました。
「みさきちゃん、きっと霊(れい)にとりつかれたんだ」
やはりみさきちゃんが狐火(きつねび)を見(み)つけて指差(ゆびさ)したのがいけなかったのかもしれません。きっとそのときに霊(れい)に目(め)をつけられたのでしょう。霊(れい)を感(かん)じやすい人(ひと)とそうでない人(ひと)がいるように、霊(れい)にとりつかれやすい人(ひと)とそうでない人(ひと)があります。どうやらみさきちゃんは、霊(れい)にとりつかれやすい体質
(たいしつ)のようです。慣(な)れない体験(たいけん)をしたのでびっくりして、心(こころ)にすきができたのでしょう。その弱(よわ)い部分(ぶぶん)にうまく霊(れい)が入(はい)りこんでとりついたようです。
つぎへ

















6
 みさきちゃんは動物
(どうぶつ)のようなひくいうなり声(こえ)をあげると、ぼくにかみつこうとしました。ぼくは、あわてて身(み)をかわして、にげました。みさきちゃんはこっちをにらんでいます。いまにもまたとびかかってきそうな感(かん)じでした。
「まずいなあ。みさきちゃんを傷(きず)つけるわけにいかないし、おいていくわけにいかないし。とりついた霊(れい)をおいはらわないと」
ぼくは、にげながら考(かんが)えました。
「そうだ。どこかにお札
(ふだ)があるはず」
ぼくは本殿(ほんでん)のまわりをみさきちゃんからにげながら、さがしました。早(はや)くお札(ふだ)を見(み)つけないと、みさきちゃんに食
(く)い殺(ころ)されるかもしれません。ぼくはあせりました。
「どこ?どこ?どこ?」
つぎへ
















6B
心の中(なか)でさけびながらさがします。そして、ありました。本殿(ほんでん)のわきに、引
(ひ)き出(だ)しらしきものを見(み)つけました。その引(ひ)き出(だ)しをあけました。
「たのむ、お札(ふだ)、あってくれ」
ぼくはいのりました。すると、はたしてそこに紙
(かみ)でつくったお札(ふだ)がありました。なにやら墨(すみ)で書(か)いてあります。
「これだ。よかった」
ぼくは、そうさけぶと、みさきちゃんの額
(ひたい)にお札(ふだ)をはりつけました。みさきちゃんはふらふらとたおれました。
「ああ、あぶなかった。みさきちゃん、だいじょうぶかな?」
つぎへ
















7
 しばらくたつと、みさきちゃんが目(め)をさましました。
「あれ、たっちゃん、どうしたの?ここはどこ?これなに?」
みさきちゃんは、額(ひたい)のお札(ふだ)をぽいとすてました。
「ああ、みさきちゃん、目(め)が覚
(さ)めた?ここは神社(じんじゃ)だよ」
「ええ?なんでこんな暗(くら)い時間(じかん)に神社(じんじゃ)なんかにいるの?」
「なんにも覚(おぼ)えていないの?」
「ん?そういえば、なにも覚(おぼ)えていない。なになに、なにかあったの?」
つぎへ
















7B
覚(おぼ)えてないほうがいいや。帰(かえ)ろう、みさきちゃん」
ぼくは、すたすたと神社(じんじゃ)の階段(かいだん)のほうへむかって歩(ある)きました。
「ええ、なになに、なにがあったの?ずるい、教
(おし)えて」
みさきちゃんがさけびながらおいかけてきますが、さっきほどはこわくありません。でも、またいつとりつかれるかわからないから、急
(いそ)ぎ足(あし)で帰(かえ)ることにしました。
 むかしの村(むら)にはよくこんなことがありました。みんなも暗(くら)いときにお墓(はか)の前(まえ)を通(とお)るときは、狐火(きつねび)を見(み)ないように気(き)をつけましょう。ましてや、指(ゆび)を差(さ)したりなんかしないように気(き)をつけましょう。
もどる

























とんねる     もどる
1
 ぼくが小学校五年生
(しょうがっこうごねんせい)くらいのときの話(はなし)です。ぼくは山(やま)の中(なか)の小(ちい)さな小学校(しょうがっこうに通(かよ)っていました。夏休(なつやす)みのある登校日(とうこうび)の帰(かえ)り、友達(ともだち)のみさきちゃんと家(いえ)への道(みち)を歩(ある)いていました。家が学校(がっこう)から遠(とお)いので、もうあたりはうす暗(ぐら)くなっていました。
「あれ、あんな女
(おんな)の人(ひと)、村(むら)にいたかしら?」
みさきちゃんが指差
(ゆびさ)すほうに、白(しろ)い着物(きもの)を着(き)た女(おんな)の人(ひと)がいました。
「見
(み)たことのない人(ひと)だね」
つぎへ

















1B
ぼくはみさきちゃんにこたえました。女(おんな)の人(ひと)は山(やま)の上
(うえ)に続(つづ)く小(ちい)さな道(みち)へ入(はい)っていきます。
「どこへいくのかしら、気
(き)にならない?」
「別
(べつ)に気(き)にならないよ」
「そんなこと言(い)わないで、ついていってみましょうよ」
「知
(し)らない人(ひと)についていってはいけないって先生(せんせい)に言(い)われたよ」
「じゃあ、女(おんな)の子(こ)ひとりでいかせるつもり?」
「はいはい、わかりました」
つぎへ

















2
 仕方
(しかた)がないので、みさきちゃんについていくことにしました。白(しろ)い着物(きもの)を着(き)た女(おんな)の人(ひと)は、細(ほそ)い山道(やまみち)をどんどんのぼっていきます。ぼくとみさきちゃんは気付(きづ)かれないようにかくれながらついていきました。
 女(おんな)の人(ひと)は細い道(みち)をのぼると、車
(くるま)の通(とお)れる広(ひろ)い道(みち)に出(で)ました。今度(こんど)はその道(みち)のはしを山(やま)の上(うえ)のほうにむかって歩(ある)いていきます。
「広い道(みち)に出(で)たわね。上(うえ)になにかあるのかしら?」
「たしか、この道(みち)は行
(い)き止(ど)まりじゃなかったかなあ?」
女(おんな)の人(ひと)はカーブを曲
(ま)がって見(み)えなくなりました。ぼくとみさきちゃんはカーブまで走(はし)っていきました。そして、かくれながら様子(ようす)をうかがました。
つぎへ
















2B
「あれ?だれもいないわよ」
「本当
(ほんとう)だ、だれもいない」
ぼくとみさきちゃんは、カーブから出
(で)ました。左(ひだり)はがけの下(した)、右(みぎ)は急(きゅう)な山(やま)の壁(かべ)があります。そして、前方(ぜんぽう)にはコンクリートでかためられた壁(かべ)があります。
「女(おんな)の人(ひと)、消
(き)えたわね」
「そうだな」
ぼくとみさきちゃんはあたりをうかがいながら、壁(かべ)にむかって歩(ある)きました。月
(つき)がかがやいて、あたりをてらしています。
「ねえ、たっちゃん、目(め)の前(まえ)の壁(かべ)はなに?」
つぎへ
















3
「知(し)らないの?昔(むかし)のトンネルだよ」
「昔(むかし)のトンネル?どうして壁(かべ)でふさいであるの?」
「もう使
(つか)われなくなったからさ」
「使(つか)われなくなったから?」
「この下(した)にもっと長
(なが)くて新(あたら)しいトンネルがあるでしょう」
「あるある。え?あのトンネルができる前
(まえ)はこれだったの?」
「ぼくたちが生
(う)まれる前(まえ)はこれを使(つか)っていたらしい」
「トンネルってことは、中(なか)はからっぽなの?」
つぎへ
















3B
「たぶんね」
そうこたえてから、悪
(わる)い予感(よかん)がしたのでつけくわえました。
「でも、みさきちゃん、中
(なか)には入(はい)れないよ」
「なんだ、ざんねん」
やはり、みさきちゃんは中(なか)に入(はい)ろうと思(おも)っていたようです。どんなおそろしいものがいるか、わかったものじゃありません。
「じゃあ、帰(かえ)ろうか、みさきちゃん」
「ちょっとまって、なにか声
(こえ)が聞(き)こえるわ」
そう言(い)えば、なにかかすかに泣
(な)き声(ごえ)のようなものが聞(き)こえてきます。みさきちゃんはしばらく闇(あいだ)の中(なか)をうろうろしました。そして、トンネルの入り口(いりぐち)をふさいでいる壁(かべ)に耳(みみ)をつけました。
つぎへ
















4
「こわい。聞(き)こえるわ。泣(な)き声(ごえ)よ」
みさきちゃんがつぶやきました。
「え?トンネルの中(なか)から、泣き声(ごえ)?」
ぼくは背筋
(せすじ)が寒(さむ)くなりました。ぼくもトンネルの壁(かべ)に耳(みみ)をつけてみました。すると、たしかにすすり泣(な)くような不気味(ぶきみ)な泣(な)き声(ごえ)がひびいています。
「聞(き)こえるよ、みさきちゃん。おとなの女(おんな)の人(ひと)がすすり泣(な)く声(こえ)が」
「よく聞(き)くと、小(ちい)さい子(こ)どもの泣(な)き声(ごえ)もするわよ」
ぼくは、耳(みみ)をつけてもう一度(いちど)聞(き)きました。みさきちゃんの言(い)うように子(こ)どもの泣(な)き声(ごえ)もまじっているような気(き)がします。
つぎへ

















4B
「中(なか)にだれか閉
(と)じこめられているのかしら?」
「ぼくらが生
(う)まれる前(まえ)に入(い)り口(ぐち)はふさがれたんだよ。十年(じゅうねん)もトンネルの中(なか)でだれかが生(い)きているわけないよ」
ぼくは体の中(なか)になにか悪(わる)い予感(よかん)のようなものを感(かん)じました。
「みさきちゃん、泣(な)き声(ごえ)を聞(き)いちゃだめだ」
みさきちゃんの様子
(ようす)がなんだか変(へん)です。
「みさきちゃん、聞(き)いている?」
みさきちゃんは、しくしく泣(な)きはじめました。
「みさきちゃん、どうしたの?」
つぎへ
















5
みさきちゃんはなにもこたえず、泣(な)いたまま歩(ある)きはじめました。トンネルの横(よこ)にある細(ほそ)い道(みち)をのぼっていこうとしています。
「霊(れい)にとりつかれたのかもしれない」
ぼくは不安(ふあん)で胸(むね)の中(なか)がいっぱいになりました。
 みさきちゃんはどんどん道(みち)をのぼっていきます。ぼくは、おかしなことに気(き)がつきました。上(うえ)から見(み)ると、トンネルの入(い)り口(ぐち)をふさぐ壁(かべ)と、トンネルとのあいだにすきまがあるのです。トンネルの入(い)り口(ぐち)の天井部分
(てんじょうぶぶん)がくずれて大(おお)きな穴(あな)になっているのです。おそろしい黒(くろ)い穴(あな)がぽっかりとあいていました。ぼくは直感的(ちょっかんてき)にあそこに入(はい)ったら終(お)わりだと思(おも)いました。
つぎへ

















5B
みさきちゃんの歩
(ある)いている道(みち)は、その穴(あな)のほうにむかっています。このまま行(い)くとみさきちゃんは黒(くろ)い穴(あな)に飛(と)びこみそうです。
「みさきちゃん、目
(め)を覚(さ)まして、止(と)まって」
ぼくはさけびながら、みさきちゃんの手
(て)をひっぱりました。でも、すごい力(ちから)でぼくをひっぱります。とても女(おんな)の子(こ)の力とは思(おも)えません。やはり霊(れい)にとりつかれているようです。
「ああ、どうしよう、どうしよう?」
ぼくはあせりました。よほど衝撃的
(しょうげきてき)なことを言(い)わないと目(め)が覚(さ)めないようです。
つぎへ
















6
「そうだ、みさきちゃん。最近(さいきん)までおねしょしてたでしょう」
みさきちゃんはくるりとうしろをむきました。
「失礼(しつれい)ね。そんなはずないでしょう」
みさきちゃんはひどくおこって、そう言(い)いました。
「よかった。もとにもどった」「なにがよかったのよ。今
(いま)、私(わたし)の悪口(わるくち)言(い)ったでしょう?きゃあ、なに、この大(おお)きな穴(あな)」
「みさきちゃん、今(いま)、それに飛(と)びこもうとしていたよ」
「え?うそ?なんで?」
「泣(な)き声(ごえ)を聞(き)いているうちに霊(れい)にとりつかれたみたいだね」
つぎへ

















6B
「本当(ほんとう)だ。穴(あな)から泣(な)き声(ごえ)が聞(き)こえてくるわ」
「みさきちゃんは耳(みみ)をふさいで、聞(き)かないようにしたほうがいいよ」
「そうね、はやくもどりましょう」
ぼくとみさきちゃんは、トンネルの上(うえ)から横(よこ)の道(みち)をおりて、トンネル入(い)り口(ぐち)の壁(かべ)の前(まえ)にもどりました。ぼくは、泣(な)き声(ごえ)がだんだんと大(おお)きくなってくるように感(かん)じました。
「みさきちゃん、やばい、木
(き)のかげにかくれよう」
ぼくはみさきちゃんの手(て)をとると、道(みち)の横(よこ)の木(き)のかげにかくれました。
 トンネルの入(い)り口(ぐち)をふさぐコンクリートの壁(かべ)から、白(しろ)い着物(きもの)を着た女(おんな)の人(ひと)の霊(れい)がすけて出(で)てきました。女(おんな)の人(ひと)はすすり泣(な)いています。
つぎへ














7
 そして、小(ちい)さな男(おとこ)の子(こ)の手(て)を引(ひ)いていました。男の子(こ)も泣(な)いています。ふたりともずいぶん昔(むかし)の服装(ふくそう)をしています。それに腕(うで)や顔(かお)にやけどのようなあとがあるようです。
 大(おお)きな男の人(ひと)の霊(れい)が出(で)てきました。男の人(ひと)は昔(むかし)の兵隊(へいたい)の格好(かっこう)をしているようです。 よく見(み)ると腕に大(おお)きなけがをしています。男の人(ひと)も泣(な)いているようです。そのあとに、おばあさんの霊(れい)が出(で)てきました。
 おばあさんも白(しろ)い着物(きもの)を着ています。おばあさんは顔(かお)にけがをして、泣(な)いている様子(ようす)でした。
 そのあとも、つぎつぎと霊(れい)が出(で)てきました。みんな昔(むかし)の服装(ふくそう)をしていて、どこかにけがをしていて、泣(な)いていました。
つぎへ
















7B
 昼(ひる)なお暗(くら)いトンネルの中(なか)は霊(れい)の集まる場所(ばしょ)になっていたようです。夜(よる)になると、霊(れい)はトンネルをぬけ出(で)て、外(そと)の世界をさまよい歩(ある)いているようです。みさきちゃんとぼくは、帰(かえ)りそこねた霊(れい)を夕暮
(ゆうぐ)れに見(み)つけてついていってしまったのです。
 でも、霊(れい)についていくと、霊(れい)にとりつかれて仲間
(なかま)になってしまうこともあるので、気(き)をつけなければなりません。そのままずっと霊(れい)の仲間になってしまって、目覚(めざ)めないこともあるからです。トンネルから出(で)てきた霊(れい)の中(なか)にもそうやってとりつかれて霊(れい)になったものがいたかもしれません。
見(み)たことのない人(ひと)が、人(ひと)のいない山(やま)へ入(はい)るのに、ついていってはいけません。
もどる





























山道のトンネル     もどる
1
 さびしい山道(やまみち)をあるいていたら、古(ふる)いトンネルがありました。朽ちかけの○○隧道(すいどう)という看板(かんばん)がついています。ぴちゃんぴちゃんという音(おと)をたてて水(みず)がしたたりおちています。
「こんなトンネル見(み)たことがないなあ。昔(むかし)からあったのかなあ」
僕(ぼく)は不思議(ふしぎ)に思(おも)いました。トンネルの中(なか)をのぞくと、うす暗(くら)い空間(くうかん)が見(み)えました。長(なが)いトンネルなのか、むこうがわは見(み)えません。ひんやりとした空気(くうき)が頬につたわってきます。
つぎへ
















1B
なにか奥(おく)のほうから甘(あま)いいいにおいがしてきます。それにひんやりとした空気(くうき)が気持(きも)ちよさそうです。うす暗(くら)いのは不気味(ぶきみ)ですが、なにかひかれるものがあります。
 ぼくはなにかにとりつかれたようにふらふらとトンネルに入(はい)りました。水(みず)が上(うえ)からしたたり落(お)ちてきます。トンネルはその全体(ぜんたい)がしめっているようでした。あるくと、下(した)の土(つち)もやわらかく、ふわふわとした感(かん)じでした。
「かわったトンネルだなあ…」
そうつぶやいたとき、服装(ふく)に水滴(すいてき)がおちました。
そのとき、異変(いへん)に気(き)がつきました。服(ふく)に穴(あな)があいたのです。水滴(すいてき)は物(もの)をとかす力(ちから)をもっているようです。
つぎへ















2
 ぼくは、どきりとしました。上(うえ)を見上(みあ)げました。トンネルの壁(かべ)にはヒダヒダのような物(もの)がついています。よく見(み)ると、すこし動(うご)いているようです。
「まるで動物(どうぶつ)の腸(ちょう)の中(なか)のようだな…」
そうつぶやいたとき、地面(じめん)が大(おお)きく揺(ゆ)れました。揺(ゆ)れるというより、波打(なみう)つといったほうがいいかもしれません。ぼくはどんどん奥(おく)の方(ほう)へ流(なが)されていきます。水滴(すいてき)が雨(あめ)のようにふってきます。服(ふく)がとけて、体(からだ)に痛(いた)みがはしります。水滴(すいてき)が赤(あか)い色(いろ)に変(か)わっていきます。
「きっと、水滴(すいてき)は胃液(いえき)のように食(た)べ物(もの)を溶(と)かすはたらきがあるんだ…」
そう思(おも)ったとき、洪水(こうずい)のような流(なが)れが奥(おく)の方(ほう)から流(なが)れてきました。ぼくはその流(なが)れにまきこまれて、気(き)をうしなってしまいました。
もどる




























眠り桜     もどる
1
 僕(ぼく)は、ある神社(じんじゃ)の中(なか)をうろうろしていたら、神殿(しんでん)の奥(おく)のほうへ迷(まよ)い込(こ)んでしまった。美しい大(おお)きな桜(さくら)があったので見(み)ていたら、髪の長(なが)い美しい巫女(みこ)さんが近(ちか)づいてきた。
「桜(さくら)を見(み)ているんですか?」
「はい」
「この桜(さくら)をじっと見(み)ない方(ほう)がいいですよ」
「なぜですか?」
「こんな昔話(むかしばなし)が神社(じんじゃ)に伝(つた)わっているんですよ」
そういうと巫女(みこ)さんは次(つぎ)のような話(はなし)を教(おし)えてくれた。
つぎへ


















1B
 昔(むかし)、ある旅人(たびびと)が神社(じんじゃ)にたどり着(つ)いて、扉(とびら)をたたいた。中(なか)から巫女(みこ)がでてきた。
「すみません。水(みず)を飲ませてください。もう動(うご)けません」
「随分(ずいぶん)お疲(つか)れのご様子(ようす)。ここでよければ休(やす)んでいってください」
巫女(みこ)がもってきてくれた水(みず)を飲(の)むと旅人(たびびと)はほっと一息(ひといき)をついた。穏(おだ)やかな春(はる)の昼下(ひるさ)がりである。境内(けいだい)のまわりでは無数(むすう)の桜(さくら)の木(き)が満開(まんかい)になっていた。神殿(しんでん)の奥(おく)に一際(ひときわ)大(おお)きな木(き)があるようで、屋根(やね)の上(うえ)から先端(せんたん)が見(み)えていた。
「奥(おく)に大(おお)きな桜(さくら)があるようですね」
「ええ、眠り桜(ざくら)と呼(よ)ばれています」
つぎへ
















2
「変(か)わった名(な)ですね。どんな桜(さくら)ですか」
「あの桜(さくら)を見(み)てはいけません。誰(だれ)も神殿(しんでん)の奥(おく)へ立(た)ち入(はい)るなと言(い)われております」
巫女(みこ)はそう言(い)うと中(なか)へ入(はい)っていった。旅人(たびびと)は疲(つか)れてから、いつの間(ま)にか寝(ね)てしまった。
 旅人(たびびと)が目覚(めざ)めると、辺(あた)りはもう薄暗(うすぐら)かった。旅に出(で)かけようとしたが、眠り桜(ざくら)のことを思(おも)い出(だ)した。
「見(み)ては駄目(だめ)と言(い)われたが、気(き)になるものだ」
旅人(たびびと)は神殿(しんでん)の奥(おく)へと足(あし)を踏(ふ)み入(い)れた。この世(よ)のものとは思(おも)われないほど巨大(きょだい)でぞっとするほど美(うつく)しい桜(さくら)が満開(まんかい)になっていた。旅人(たびびと)はその桜(さくら)をじっと見(み)た。見(み)ると眠(ねむ)くなってきた。
つぎへ
















2B
「さっき寝(ね)たばかりなのに…」
旅人(たびびと)は薄(うす)れ行(い)く意識(いしき)の中(なか)でそう呟(つぶや)いた。
 翌朝(よくあさ)、巫女(みこ)が神殿(しんでん)の奥(おく)へ行(い)くと旅人(たびびと)の亡骸(なきがら)があった。
「旅のお方…。入(はい)らないよう申(もう)しましたのに」
巫女(みこ)は桜(さくら)を見(み)ないように気(き)をつけながら、亡骸(なきがら)を桜(さくら)の木(き)の下(した)に埋(う)めた。
「この桜(さくら)を見(み)ると眠(ねむ)くなってやがて死(し)んでしまうから、見(み)てはいけませんわ」
栄養(えいよう)の行(い)き届(とど)いた巨大(きょだい)な桜(さくら)の木(き)は、ぞっとするような美(うつく)しさの花(はな)を満開(まんかい)に咲(さ)かせていた。その妖(あや)しい美(うつく)しさは、次(つぎ)の獲物(えもの)を誘(さそ)っているかのようであったそうだ。(了)
もどる

























花の鉢植え     もどる
1
 僕(ぼく)は市場(いちば)で鉢植(はちう)えを買(か)ってきた。名(な)は知(し)らないが、どこにでもあるような赤色(あかいろ)の花(はな)が咲(さ)いている。なぜこんな花(はな)を買(か)ったのかは自分(じぶん)でもよくわからなかった。引(ひ)き込(こ)まれるように手(て)にとって買(か)ってしまったのだ。しかし、これで殺風景(さっぷうけい)な僕(ぼく)の部屋(へや)も多少(たしょう)明(あか)るくなるかもしれない。
 僕(ぼく)はアパートの自分(じぶん)の部屋(へや)に帰(かえ)った。窓際(まどぎわ)の小(ちい)さな水槽(すいそう)には熱帯魚(ねったいぎょ)が泳(およ)いでいる。その横(よこ)に花(はな)の鉢植(はちう)えを置(お)いた。日(ひ)が差(さ)す場所(ばしょ)はそこしかない。僕(ぼく)は花(はな)に水をやった。そして、飼(か)っている猫(ねこ)に餌をやった。
つぎへ
















1B
 翌朝(よくあさ)、不思議(ふしぎ)なことが起(お)こっていた。水槽(すいそう)に花(はな)が一本(いっぽん)咲(さ)いていたのだ。それは水槽(すいそう)の水の中(なか)に根(ね)を伸(の)ばしていた。鉢植(はちう)えの花(はな)と同じ花(はな)だ。水の中(なか)に種が入(はい)って一晩で成長(せいちょう)したのだろうか。熱帯魚(ねったいぎょ)はいなくなっていた。おかしなこともあるものだと思(おも)って、僕(ぼく)は学校(がっこう)に出(で)かけた。
 学校(がっこう)が終(お)わって、アパートに帰(かえ)った。鉢植(はちう)えと水槽(すいそう)に花(はな)が咲(さ)いていた。それ以上(いじょう)は増(ふ)えていないようだ。水(みず)のある所(ところ)に増(ふ)えるのだろうかと思(おも)った。
 猫(ねこ)が鳴きながら近(ちか)づいてきた。僕(ぼく)が部屋(へや)で飼(か)っている猫(ねこ)だ。抱きかかえて頭をなでた。そのときおかしなことに気(き)がついた。猫(ねこ)の頭から角(つの)のようなものが出(で)ていた。鬼のような顔になっていたのだ。僕(ぼく)はその角(つの)のようなものをよく調べてみた。緑色(みどりいろ)のその角(つの)は植物(しょくぶつ)の芽(め)のようであった。僕(ぼく)はどきりとした。僕(ぼく)は猫(ねこ)をもっとよく調べてみた。
つぎへ
















2
 すると、お腹の下(した)から長(なが)い緑の茎のようなものが伸びていた。あの鉢植(はちう)えの植物(しょくぶつ)は動物の体に取り付いて仲間を増(ふ)やすのか。そう言(い)えば、熱帯魚(ねったいぎょ)がいなくなっていた。まさか…、どす黒(くろ)い不安が胸の中(なか)に広がっていった。僕(ぼく)は自分(じぶん)の体(からだ)を手(て)で触ってみた。すると、自分(じぶん)の頭の上(うえ)に角(つの)のようなものが出(で)ているのがわかった。
 ぼくは怖くなったので、鉢植(はちう)えの花(はな)も茎も根もばらばらにして捨てた。すると、猫(ねこ)にとりついていたものも僕(ぼく)にとりついていたものも消(き)えた。危なかった。変(へん)な鉢植(はちう)えを買(か)うととりつかれることがあるので気(き)を付けたほうがいい。(了)
もどる
































戻る