Landscape
have a memory for a photograph
夏の名残
「私の写真が、いや、私のに限らず写真というものが世界を変えるなんて、大げさもいいところだ。世界を変える役目なら、地球温暖化のほうがずっと適任だよ」と言ったのはエリオット・アーウィット。なかなかウマイことをいうものだ。このコメントは、日本版プレイボーイ2008年6月号の『世界を変えた50枚の写真』という特集記事に掲載されている。 確かにここ数年間の天気は目に見えて変わってきている。突然の大雨で洪水になったかと思うと、何時までも雨が降らずに干上がってしまったり、見たことも無い竜巻が、猛烈に辺りの物を巻き上げてしまう。 誰も予想がつかない自然災害を前にして、何でもかんでも地球温暖化を犯人扱いするのもどうかと思うけど、確かに今年の夏も酷いものだった。まるでブラッドベリの小説に出てくる何処かの惑星のように、永遠に続くんじゃないかと思うような長雨だったし、今まであたり前のようにやって来ると思っていた、太陽がガンガン照りつける暑い日もほとんどなかった。 これではビールを飲んでも美味く感じるわけがない。まったく気が滅入ってしまうというものだ。 ただ何時までも嘆いてばかりいてもどうなるものでもないので、夏の終わりになって、宮城県にある伊豆沼のハスを撮りに出かけることにした。ここは湿地の生態系を守るために創られたラムサール条約に登録しているだけあって、冬は渡り鳥の楽園だし、夏には水生植物が広大な沼全体を気持ちよく覆い尽くし、見事な風景を見せてくれる場所でもある。 何時ものように朝からショボイ雨が降っていたので嫌な予感がしていたけど、カメラをセットした時にちょうど雨脚が強くなってきた。「ふん、やっぱりね。まあ風景写真は雨もまた良しだよな」と自分にいい聞かせながらシャッターをきる。全身ずぶ濡れになりながら、撮影は二時間ほどで終了。機材を片付け始めた時、それが合図のように雨が上がり、珍しく日が射し始めた。
それでスイッチが入ったのか、今までジッと息を潜めていたアブラゼミがここぞとばかりに「ミ−ン、ミンミン」と一斉に鳴き始める。「ちぇ!このずぶ濡れの体をどうしてくれるんだい」セミに怒りを投げつけてもどうなるものでもないけれど、私も聖人君子ではないので、この時ばかりは正直言ってほんの少しばかりイラっとした。「でも、いいか。まったく撮れなかったわけではないし、とにかく5カットくらいは何とかなったんだからね」
伊豆沼ハス祭りは8月1日から31日までの1ヶ月開催されているけど、お祭り期間中とはいっても、終了間際になってしまうとさすがに見ごろを過ぎてしまうようだ。そのせいか周りを見渡しても出店が出ているわけではないし、釣り人をポツリポツリ見かける以外にほとんど人影もない。お祭りという華やかなイメージとは程遠く、何となく物悲しい風情さえ漂っている。 「何、あんた、ハスを撮りに来たの?ああ、今頃来てもちょっと遅いなあ。ほら、見てのとおりだよ。ずいぶん散ってるだろ?ところで何処から来たの?ふ〜ん。わざわざ遠くから来たのに、それは残念だったなあ」伊豆沼に詳しい事情通と称する老人はのんびりと話し始める。 「前に来たのは7月末だって?そりゃダメだよ。ハスなんかあんまり咲いてなかったろ。えっ?アサザがちょっとだけ?当たり前だよ。そん時は早過ぎたんだよ。そんなことはこの土地のもんだったら皆知ってるよ。ああそうか。よそから来たんで知らなかったのか。それにしても、あんたトコトン間が悪い男だねえ」 恐らく暇だったんだろう、時おり欠伸を噛み殺しながら、彼の話は延々と続く。「何と言っても、見ごろはお盆の時だね。そりゃ凄いもんだよ、俺が言うんだから間違いないよ。騙されたと思って来年また来てみなよ、観光客もいっぱい来るしさ、みんなあっちこっちで記念写真を撮ってるよ。ああ、あんた、記念写真を撮りに来たんじゃなかったんだっけ。え?風景写真?ふ〜ん、人が写ちゃまずいの?う〜ん、それじゃちょっとなあ、人がいっぱい来るからなあ・・・・」 どうやら、ハスが見ごろの時期でも風景写真を撮るには苦労しそうなことだけはわかった。いや、どうも、ご親切にありがとうございました。
The photography date August.28.2009 Izunuma,Japan2009.11.22
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