
第11章 大いなる孤独
(4) 作業は終わりに近づき、実った麦の穂は刈入れの時を迎えました。
麦の最後の一列が刈り取られた日、ルブリン・デュは自分の仕事の最後の仕上げとして、鳥のような奇妙な形をした馬の頭に敷き詰められた、真っ白な白亜を平らに均(なら)しました。
翌朝、ルブリンの一族と舞い戻っていた古き民が麦を束ねる作業に駆り出されている間、ルブリンはあの見晴らしの木へと向かいました。
作業を始めた春先には紫に萌えていた雄大な魔女楡の枝々も今では、夏の終わりに色を深めた広い葉で幾重にも覆われています。
ルブリンは、谷の向こうを見渡して自分の作り上げた物を眺めるために、二本の枝を両脇に押し分けました。
そこには、彼が夢で見た白い牝馬がいました。
道のりの遥かなことを知っているが如く、緩やかな足取りで駆ける白い牝馬のしなる首と長くたなびく尾は、丘陵のなだらかな起伏に映えて、まるで世界の始まりからそこにあったかのように、そして世界の終わりの時までもずっとそうあり続けるように見えました。
ルブリンは、まるでハヤブサのような頭と、胴体から離れて大きく開いた二本の脚を持つ、牝馬の異様な姿を眺めました。
しかしその異様さこそが、彼女に愛らしくも軽やかな動きを与え、炎と月明かり、力と美の化身たらしめているのです。
遠くの枝から眺めながらルブリンは、夢の実現が間近であること、死にゆく者のつとめが完璧に成し遂げられつつあることを、神の啓示を受けたように悟ったのでした。
今やルブリンに残されたなすべきことはただ一つ。
自分が跨がるこの偉大な枝の生命力を感じることはもう二度とないのだと思いながら、ルブリンは友に別れを告げるかのように、魔女楡のざらざらとした木肌に手をのせました。
それから地上に降り立つと、波のように盛り上がる丘陵と、彼の一族がその強さを誇った丘砦の方に向き直り、その全てを見納めてから、用意が出来たことを告げるためにアトリベイツのクラドックのもとへと向かいました。
ルブリンは、馬小屋の前の庭で新しい戦車を検分している族長を見つけました。
馬小屋の軒下では、ツバメたちがさえずりながら、ゆすり蚊の群れの中へ矢のように低く飛び交っています。
「クラドック族長、あなたの前線の標(しるし)、白い馬が完成しました。行って確かめていただけませんか。」
くびきの横木をはめる生皮の綱の具合を確かめていたクラドックは、顔を上げると首を横に振りました。
「俺が夏のあいだ中ずっと、馬が出来上がっていく様子を見ていたことは、お前も良く知っているはずだ。いまさら確かめに行くまでもあるまい。」
「では仰って下さい。あれでよろしいですか?」
「初めの馬でも良かっただろうな。」クラドックは言いました。
「しかし、俺たちはともに馬の民だ。お前も俺も。」(この中庭でまさに同じ言葉を言った父の記憶がルブリンに甦りました。その時もツバメが矢のように低く飛んでいました。)
「良い牝馬は見ればわかる。あの馬は、馬の群れには多くの仔馬を、そして女たちには丈夫な息子を授けてくれそうだ。よし、あの馬で良いだろう。」
「それでは、これから我が民のところへ行き、出発の準備をするよう命じます。」
そう告げるルブリンに、
「これから四日間、ラマスの収穫祭が執り行われる。ラマスの火が冷えた時、馬を揃えて門を開き、お前の民を解き放とう。」
と族長のクラドックは言いました。