
第8章 取引
(1) その時はそれで終いになりました。
それからしばらくたったある晩、クラドックは夕食後の広間で退屈していました。
竪琴弾きが謡う唄はすべて知っているものばかりで、なにか目新しいものが欲しくなっていたのです。
そしてふと、たった数本の流れる線で疾走する馬の群れの速さと力強さを描いた、あの色黒で背の低い族長の息子のことを思い出しました。
彼は指を鳴らして武具運びの小姓に合図をし、こう命じました。
「フェラダック、捕虜の檻に行って族長の息子をここへ連れてこい。ルブリン・デュとか言う奴だ。」
ほどなくして、ルブリンは族長の広間に立っていました。
アトリベイツが来てからというもの、立つことのなかったその場所。
今は族長のクラドックがゆったりと手足を伸ばしている、毛羽だった皮の敷かれた玉座は、かつてルブリンの父が座り、そしてダラがその後に座るはずの場所でした。
もしも振り仰げば、頭上の屋根の梁には煙でひからびた父の、歯をむいた髑髏(しゃれこうべ)があることをルブリンは知っていました。
見上げるべきだということは分かっていましたが、クラドックの顔より上は、見ることができませんでした。
「俺のために描いてくれ」クラドックは言いました。
驚いたルブリンは、しばらくのあいだ相手を見つめ、そして言いました。
「なぜ、あなたのために描くのです?」
「何か新しいものが欲しいのだ。」
「ならば、竪琴弾きに新しい唄を作らせたらいいでしょう。」
「やつはどこかで聞いたような古くさい唄しか作らん。」クラドックは愚痴って言いました。
「だから俺のために描くのだ。そら、この炉石の上に。」
「僕は誰かに命じられて絵を描いたりはしない。」ルブリンは言いました。
二人の間に3呼吸分ほどの沈黙が、ゆっくりと流れました。
(「殺されたって、奴らのためにあの魔法の絵は描くものか。」とルブリンは思いました。)
するとクラドックは、まるでルブリンの思いが聞こえていたかのように、応えました。
「いやいや、お前を殺したりはしない。だがな、お前の民の運命はお前の返事にかかっていることを忘れるなよ。
ルブリンの喉元まで、苦いものが込み上げてきました。
それでもルブリンは、彼の一族のぼろぼろになった生き残りたちを思い出して、声を絞り出しました。
「何を描けというのですか。」
「もっと馬を描いてみろ。」族長のクラドックは言いました。
ルブリンは、黒こげになった棒を炉の中から拾い上げると、炉石の横にしゃがみこんで描きはじめました。
それはずっと昔、老シノックの竪琴の唄を描こうとしたあの炉石でした。