
第8章 取引
(2) ルブリンは、2頭の種馬が闘う様子を渦巻きと荒々しい線とで描きました。
クラドックは膝に腕をのせて前屈みになり、戦士たちとその奥方達も互いの身を重ねるようにして覗き込んでいます。
ルブリンは描いた線をぬぐい取ると、今度は仔馬に乳をやる母馬を描きました。
その次に軍馬のポニーが、戦いを告げる遠くの角笛の音を頭をもたげて聞いていたり、迫り来る危険の匂いを運ぶ風を嗅いでいる様子を描いた後、再びルブリンがその絵をぬぐい去ろうとしたとき、族長は慌てて身を乗り出すなり彼の手首をつかみました。
「消すな!そのままにしておけ!」
ルブリンは手にしていた黒こげの棒を横におくと、かかとに体重をかけるようにしてしゃがみました。
自分はまるで主人の口笛の合図をじっと待つ猟犬のようだ、そう思いながらそこにしゃがみ込んでいるルブリンと、そんな彼を取り巻くようにして絵を覗き込んでいる戦士たちをしり目に、クラドックは炉石の上に炭で描かれた何本かの線を食い入るように見続けました。
やがてクラドックは手をさし伸ばし、杯運びの小姓から手渡された青銅の酒杯のワインを飲み干すと、座り直してから炉辺に群がっている仲間を見回しました。
「俺には考えがある。」
「クラドック族長には考えがおありだ!角笛で我らに知らしめよ!」
族長の乳兄弟であるアンバーならではの軽口を、炉辺の仲間たちは黙って聞き流しました。
クラドックはいかにも強そうに曲がった歯をニッと覗かせて、頭を横に振りました。
「俺には考えがある。炉辺の板石に描かれては煙のようにすぐに消されてしまう馬たちの、何と無駄なことか。俺には考えがある。今やここ白亜の丘にまで前線を押し拡げた我らは、丘陵の古き牧に新たな塁壁を構え、偉大な我らにふさわしいものとして築いたこの丘砦に牧の宿営を定めた。」
(そうかい、あんたたちが大きく作った、そう言うんだな! ルブリンは先ほど掴まれた時に痛烈に感じたクラドックの握力と、この冬の間に木材やドロドロの白亜の中で死んでいった老人や病気の男たちのことを思い浮かべていました。)
「そしてだ、我々の最前線のこの地の急斜面に、このような馬の像を持つのはいかがかな。丘の中腹の白亜を彫り出せば、ここが我らアトリベイツの最前線基地であることを永遠に知らしめることができよう。」
クラドックは両手で膝をピシャリと叩きました。
「ここに我らの目印を打ち立てようではないか。草が白亜の丘を覆い、仔馬が生まれる春が何度巡りこようとも変わらぬ標(しるし)を!」