
第8章 取引
(7) 冷たい沈黙を破ったのはダラでした。
「お前の話した取引とは、金貨の馬のことではないだろう。それがなんであるか話して欲しい、ルブリン、私の兄弟よ。」
「そうだ」十数人の声がそれに応じました。
「それを聞かせてくれ!」
「僕は族長のために、丘の中腹に太陽の馬を作ってみようと言った。そしてもし、僕が作り上げた馬を彼が良いものだと思ったら、我ら一族の生き残りを自由にしてくれと。ここより別の地で、新しい馬の群れを育てることが出来るように、十分な数の種馬と、子をはらんでいる牝馬をつけたうえで。」
不平をつぶやく低い声が、聞き手側からあがりました。
すかさずダラが言いました。
「そうか!それこそまさに取引に値する!」
すると誰かがダラの後ろの暗闇でこう言いました。
「だが、奴はその取引を守るのか? 馬が完成しても、良い出来ではないと言えばすむ。」
「クラドックは取引を守るよ。」ルブリンが言いました。
「そして僕も自分の分を守る。」
ルブリンはダラの瞳を探し、2人は見つめあいました。
言葉にはしなくとも、北へと旅立つあの日の夢が思い出されていました。
ルブリンとダラの2人で共に、一族を導く夢を分ちあったあの日。
その後、ダラがテレリの結婚相手に選ばれて、次の族長になったあの宴。
もしも夢が現実になったとしても、ルブリン独りで先導して行かねばならないと知ったあの日。
そして今、現実は別の形であらわれたのです。
一族を北へと導くのはダラであり、そのときルブリンは・・・・。
突然、ルブリンが族長の広間で感じた何か、言葉にもせず考えもせぬままにしたあのことが、ぐるぐると頭の中を巡り始めました。
ルブリンはそれを闇のなかへと押しやり、見ないようにしました。
今はまだその時ではないのです。
「手助けが欲しい」ルブリンは言いました。
「芝土を切り抜いて、白亜を運び出すのに。」
「我々を使ってくれ。」
ダラは身振りで自らそう申し出ると、クノがそれに付け加えました。
「今までだってさんざんやらされてるしな。」
そしてテレリも女たちの間から進み出ると、恥ずかしそうに腕をさっと伸ばし、ルブリンの手首にかすかに触れて言いました。
「私も白亜を運びます。分らなかった私を許して。」
それでもルブリンのひとりぼっちの寂しさは、捕われた最初の晩に感じ始めたあの孤独は、深まることはあっても消え去ることはありませんでした。