
「でもあなたが作るのは、あいつらの馬なんでしょ。」
「ああ、確かにあいつらの馬、アトリベイツの太陽の馬さ。でもそれは月の馬、我ら一族の馬でもあるんだ。こうして森の向こうに丘陵が続き、仔馬の母なるエポナの神に人々が祈りを捧げ続ける限り、ここにイケーニが居たことを知るだろう。」
著者からの一言 英国の丘陵に点在する白い馬の刻印。
そのほとんどが18世紀ないし19世紀に作られたものですが、バークシャーの丘の上にある『アーフィントンの白馬』は、もっとずっと古い時代のものです。
いつ作られたのか正確なところはわかりませんが、おそらくキリストが生まれる100年以上も前と言われています。
丘の上に刻まれた馬の遺跡というのは大抵、ただじっとかしこまっている感じで、時にはお上品な風情を漂わせているものも見られますが、いずれにしても少しも生命の息吹というものが感じられません。
ところが『アーフィントンの白馬』は実に不思議。
躍動感と力強さと美しさに満ち溢れているのです。
私は常々、不思議なものにはそれにまつわるお話があると思っています。
心から話して聞かせたくなるような、長い間忘れ去られていた物語が・・・。
そんなある日のこと、T.C.レスブリッジの『魔女』という本を読んでいると、ごく早い鉄器時代に存在した部族であるイケーニ族が、英国東部だけでなくテームズ上流渓谷の北、チルターンズや丘陵地帯にも、南からの侵略者たちによってそこを追われるまで住んでいたという説に出会いました。
その時、物語がどのようなものであったかのアイディアが浮び始めました。
そして出来上がったのが『太陽の馬 月の馬』です。
レスブリッジ氏によれば、追われた部族イケーニが、アーガイルやキンタイアのエピディになったということです。
エピディもイケーニも、共に「馬の民」という意味であるからです。
もしそうならば、ルブリンの部族は無事北の牧に辿り着いたことになり、私の書いたお話もハッピーエンドとなるわけです。
もし読者の中に、マーカスとエスカが失われた軍団の旗を取り戻すために北へと向かった『第9軍団のワシ』の冒険をすでに読まれた方がいて、ルブリンの部族がマーカス達が出会ったエピディとはあまり似ていないと思われたなら、それは私がお話を書いた時点ではまだ『魔女』を読んでいなかったということなのです。
もし読んでいれば、もう少し違った風に描いていたことでしょう。
でも、もちろん200年以上も経過する中で、彼らはずいぶん変化したのだともいえるかもしれませんね。