〈サンマにだけは…〉

 子供時代を過ごした後志管内留寿都村からは、標高700b少々の橇負山が間近に望まれ、その山容は寝

かされてばかりいる赤子の絶壁状の頭部のようでもあり、握りすぎたおむすびのようにも見える。

 中学の卒業が迫った頃、その山麓で全校スキー大会が催された。今風の整備されたゲレンデではなく、荒雪のタ

 ンネ(針葉樹)の林を潜り抜けるという自然味溢れる大会。滑り終わって緊張の糸が切れたのか、スキーを外し

 た途端、不注意にも、片方の板が硬雪の上を活きのいいサンマのように滑り出した。「待って〜待って〜」。

ズボズボ埋まる雪に足を盗られながら必死に追いかけたが、スキー板ははるかかなたにいってしまった。

 社会人になってすぐに山登りの楽しさを知り、自然体で冬の山にも出かけるようになった。雪が積もった山は

 山道が消えてしまうが、夏にはうっとうしかったササヤブが雪に覆われ、どこでも自由に歩き回れる。

白いキャンバスのような雪原を、仲間と共に山頂を目指す時、ほてった顔は寒風にされ、それがむしろ心地良い

 くらいだ。やがてたどり着いた山頂からは皆一斉に滑り降りる。荒雪、深雪に苦戦しながらのどはカラカラ。真

 冬には新雪や深雪を堪能し、里が春めいてきた今時期は、雪の感触を惜しんで春山のスキーで一年をしめくる。

いつまでも上達しないことに自分であきれながら、あの活きのいいサンマだけは避けたいと思っている。

                                      (登別嶝友会 神原照子)

 

   平成18年4月11日 北海道新聞 みさき 掲載分(第1回)         <クマさんの知恵袋>へ続く