<クマさんの知恵袋>



 今年の春は低温続きで、近郊の山にもまだ豊富な雪が目につく。この時期、登山者として山に分け入るとき、気

になるのは動物たち、とりわけ森の王者のクマの目覚めだ。素人目にも雪の上に足跡が残っていればクマが通った

ことが明らかなので、そんな時は辺りを見回し力をこめて笛を吹き鳴らす。

 ある時、急な斜面にさしかかると、それまでの足跡が突然に消え、何とその先は尻滑りをしたらしく、一直線に

沢に向かって降りた跡があった。クマの尻滑りの姿を想像すると、くっくっとおかしさが込み上げてきた。

 しかし、本来は自分の足跡を残すことを嫌う。時にはほふく前進のように腹ばいで進んだり、土の上を歩かず草

の上を歩くなど自己の存在を主張することは少ないようだ。

 昔も今もクマによる悲惨な事故を耳にするが、傷を受けたクマ自身も必死だ。その傷口に止血作用がヨモギの葉

を詰め込んだり、戦国時代の甲冑よろしく、松脂を全身に塗りたくり、プシ(アイヌの使う毒矢)の射かけから身

を守ったということも聞く。数`に及ぶテリトリーを守りながら、己れ一頭で生き抜く知恵を絞りだしての行為な

のだろう。「熊」という字は「能」に足を四本つける。字の通り、クマはすぐれた知恵者なのかもしれない。

 山菜取りのシーズンを迎えた。、猫のように忍び寄るクマの習性に気をつけたい。
 

                                   (登別嶝友会 神原 照子)
 

   平成18年5月16日 北海道新聞 みさき 掲載分(第2回)     さち子さんの叙勲へ