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歴史を活かすまちづくりの紹介
Vol.1 新潟村上市
Vol.2 広島県福山市鞆
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〔Vol.1(2002.4)新潟県村上市〕
1 越後・村上を訪れたわけ
東京6:40あさひ303号で出発。指定券が取れず混雑を心配したが、余裕で自由席に着席できた。昨夜からの雨が上がり美しい富士山に見送られたが、谷川岳をくぐるとがらりと曇天に変わる。あさひ号はほぼ各駅に停車するタイプだったが、車内は席に大分余裕がある割に、山歩き風の中高年や結婚式に出かける家族連れ、友人と連れ立った若者などなどが入れ替わり乗り降りし、かなり賑やかである。終点の新潟駅で構内の立ち食いうどん屋から素うどんをテイクアウトして、こちらは意外に席の埋まっている特急いなほ号に乗り継ぎ、10時前に村上に到着。駅でレンタサイクルを借り、小雨がぱらつく中、村上の町に向かった。
村上市は新潟県北部の岩船地域の中心で、人口は3万、周辺町村を合わせても8万程度と小さなまちである。小さいながら歴史ある城下町で、城下町時代に培われた工芸や三面川をさかのぼる鮭の加工、町家や雛人形といった伝統文化がよく伝えられているといわれている。
目的地のプロフィール紹介はともかく、なぜ岩船地域を訪れたのか?…本題に移る前にやや前置きをしておきたい。筆者はこの3月に10年あまり勤めてきた都市計画事務所を退社して、新たな出発を切ったところであった。これまでは、いわゆる都市計画コンサルタントとして行政からの委託業務をこなすスタイルで仕事をしてきたのだが、今後は、住民による発想、自分が住むまちへの思いに重心を置くスタイルに転換し、それらが反映される都市計画を目指したい。そのとき、まちや地域の歴史的な形成過程を把握し踏まえることが重要になるのではないか、というようなことを考えてのことである。
とはいえ、住民の意識は必ずしもまちづくりに集約できるに至らないことも多く、敢えてそんなアプローチを取ることが現実的なまちづくりの方法論となりうるのだろうか…。そんなときに、新潟県の村上で"コミュニティビジネス"の発表会が行われるという情報を入手した。地域の人々が身近なテーマにこだわって、地域に抱く思いを何らかのビジネスとして形にしようと取り組んできた発表会ということである。これをきいて、求めていたイメージにぴったりではないかと感じたのである。小粒でも個性の光る地域を舞台に、ごく普通のひとびとがいきいきと生活を楽しむ様子を思い描き、訪れてみることにした次第である。
2 「コミュニティビジネスフェア」
「地域を創る コミュニティビジネスフェア」は、土、日の2日間、村上市中心市街地の空き店舗を会場に開催された。
活動成果を発表する各グループは、「都岐沙羅の元気づくり支援事業」※の一環として、年度初めに取り組みのプログラムを申請し、審査の結果資金助成を受けて活動してきている。「都岐沙羅の元気づくり支援事業」は、県内各地で地域の創意に基づき展開されている「ニューにいがた里創プラン」の岩船地域版として県、市の補助を受け行われてきているもので、平成11年度にスタートして以来今年(13年度)で丸3年を数えるそうである。
※地域の元気につながる起業の応援を目的に、NPO法人都岐沙羅パートナーズセンターの運営により、実施されている。フェアの詳細等はhttp://plaza3.mbn.or.jp/%7Etukisara/。
各グループのPR展示が取り囲む中会場には、オープニング早々、発表を行うメンバーが多数つめかけ、早くも盛り上がりを見せていた。午前中一杯、発表とそれに対する審査員による講評が行われた。
"コミュニティビジネス"という言葉からは、福祉・育児のネットワークや公共空間の自主利用、地区レベルの緑や歴史に着目した環境づくりなど、どちらかと言えば地域の人々が支えあうサービス主体の内容が連想される。それに対して、「都岐沙羅の元気づくり支援事業」の助成グループは、もちろん観光ガイドやイベントの仕掛け・実行などサービス主体のものもあるが、笹、まゆ、丸太や灰の活用のように、地域の農林産品を加工した工芸、食品などを基本とするものが多く、モノへのこだわりが強いことが特徴であり強みであるように感じた。そのためか、2,3年目の取り組みの中には、モノの提供、販売という形で、支援事業が目的とする起業にかなり近づいているもの※もある。もちろんそのクラスの取り組みグループの面々になると、独自の路線を切り拓きつつあるその道のキーマンという感じを受ける。
※ 発表の中で、補助金がどのように活用されたかなど収支報告も行われ、二年目以降の"開花部門"の取り組みについては「商品、サービスの提供による収入」などやや詳細な内容が示される。例えば開花部門では百五十万円程度の補助金に対して、1千5百万円を超える収入を得ているものもあった。
地域住民による活動、起業について、東京をはじめ大都市の感覚からは見えない地方の可能性、潜在能力を感じたように思い、ボトムアップの地域づくりの盛り上げ役を志す筆者にとっては大変心強い励ましを与えてくれる内容であった。
3 村上のまち、町家体験
コミュニティビジネスフェアは、初日は午前中の成果発表に続いて講師を招きステップアップのためのアドバイスを受ける時間が設けられ、二日目の日曜にも地域通貨、コミュニティカレッジの実験が予定されていた。が、1泊2日の日程の中ではじめての村上のまちも見ておきたい。そこで土曜の午後と日曜の昼頃までの間はまち歩きに充てることにして、レンタサイクルを借りてまちなかを見て回った。
村上ではちょうど「町屋の人形さま巡り」が開かれていた。これは、中心市街地の町家のうち60軒あまりが、それぞれの家に伝わる雛人形を町家の茶の間≠ノ飾り、訪れる観光客を受け入れてそれを自由に鑑賞してもらうというイベントで、3月始めから1ヶ月間開催されている。
村上には、酒田、鶴岡など山形県側とともに、江戸時代に日本海で活躍した北前船による京都などとの交易、交流を背景とした雛人形文化がある。要するに女の子が生まれると雛人形を揃え飾る習わしなのであるが、豪華なもの、由緒あるものから素朴な土人形、手作りの紙人形に至るまでバリエーションに富む大変豊かなもので、これらが旧家や町屋に代々大切に伝えられている。
「町屋の人形さま巡り」で主役の人形とともに注目すべきは、人形を飾る町屋の建築空間と、雛人形とあわせて飾り付けられる各種の人形や屏風、幟(のぼり)など諸々の小物である。村上の町屋には、表通りに面した店などが置かれる部屋に続いて茶の間≠ニ呼ばれる日常的接客に使われる部屋がある。茶の間は、奥行きの深い町屋の中で平入りの主屋の棟付近に位置し、2階の床を貼らないで梁から上の屋根架構を見せ、さらにこの部分に天窓を設けるため、空間的な演出性が高い。これに加えて、梁より下の指物や部屋境の建具には塗りが施され、神棚、仏壇が配置されて、家の中で特別の場所に設えられているようだ。この茶の間を展示空間としてさまざまな小物と一緒に飾られる雛人形は、筆者には、単なる人形を超えてその家の歴史を語る小宇宙のようにも見えた。
人形を公開する町屋の多くは商店や工場の倉庫、作業場などとなっているが、通りから中をうかがうと、居住者の方々から「どうぞ」と招き入れられ、繰り返しの労をいとわず丁寧に説明してくれるいろいろな話とも合わせて、思いのほか村上の町屋が持つ魅力にふれることができた。
4 歴史を伝える生活の確かさと新しい力の手ごたえ
「町屋の人形様巡り」の参加者は今年は延べ10万人に及んだとのことで、仕事や生活をしながらのもてなしを1ヶ月続けるのは大変だったのではと思われるが、どこの家でも快く受け入れてもらえた。このイベントが始まる前の様子を聞いているわけではないが、住民の方々は今では、村上を訪れる人々を積極的に迎え入れて楽しんでもらうことで、観光客との交流を通じて自分たちも気づかなかったことが分かってくるなど、苦労を補って余りある収穫を感じているのでは、などとよそ者の勝手で想像してみたくなる。3年目で60軒余りの参加があることが、その盛り上がりを物語っているのかもしれない。
それにしても、町並みを観光資産とするまちはいろいろあるが、まちを歩く観光客と居住者の交流はなかなか難しいのが実態なのではないか。まち歩きブームはますます盛んで、造り酒屋なり染物屋なり昔ながらのものづくりや商売を体験し知ってもらうために、各地で町家を公開する例が増えているときく。しかし観光客がまち歩きを楽しめる広さ※は意外と限られているので、歩きながら見て廻るには、町並みの中にできるだけ多くの公開町家が集中しているコンパクトなスケール感が必要になる。
※半日から1日では、実質歩く時間が1〜3時間とすると延べ歩行距離は2〜5q、村上の場合町家が集まる旧市街地が概ね○q×○qと、長い区間の移動に自転車を使えばその中をだいたい1日で回遊できることになる。
団体を含む観光客が集中しみやげ物屋などが軒を連ねるいわゆる観光地ではない普通のまちで、それだけの条件を備えるところは少ないのではないか。そう考えると、村上の「人形さま巡り」は、町並みを舞台とした観光交流の先進的な実験といえるのではとも思える。町家巡りを通じて、通り過ぎるだけでは分からなかったそれぞれの家の歴史を確かに伝える暖かい暮らしにふれることができただけに、そのことが強く実感された。
「町屋の人形さま巡り」は今年で3年目だそうで、偶然の一致かコミュニティフェアとキャリアは同じである。人形さま巡りは観光客だけでなくまち中の人が知っているのに対して、コミュニティビジネスフェアの知名度は参加者に限られるという違いはある。しかし、村上のまち及び岩船地域に新しい動きをつくり出そうとするという点で、これら二つのイベントは共通するように思える。
町家に住む方々は、代々伝わる昔ながらの伝統を守り旅人と接する中に、漠然とではあるが伝統、歴史の持ちうる新しい意味、役割を実感しているのではなかろうか。それはもしかしたら、経済成長に変わる心の糧として時代が模索し求めるものに応えることなのかもしれない。
コミュニティビジネスを目指して活躍する方々は、それぞれのテーマに沿って新しいビジネスの可能性を見出しはつらつとしているように見受けられた。仲間で力を合わせ、またアドバイザー派遣制度を生かして一つ上にステップアップし、着実に歩を進めていることがエネルギーになっているようだ。が、それに加えて今回のイベントにより、他にも新しいビジネスを起こし力をつけていくグループがあることを知り、個々には小規模でも全体として地域発展の新しい力となり、地域を変えていける可能性が共通して認識されたことが意義深いと言うことができる。
そんな訳で、以上たった二日間の滞在で見聞きした事柄だけで言うにはいささか短絡に過ぎるかも知れないが、筆者にとっての村上旅行は、「伝統の力の確かさと新しい力の手ごたえ」を感じたすこぶる印象的な体験であった。
〔Vol.2(2002.10)広島県福山市鞆〕
工事中 もう少々お待ちください