そのニュースはぼくに、
あの島のことをおもいださせてくれた。
遠い昔、たった1週間過ごした、あの島のことを。
あの島の奥まったとこにある、工芸の村の、
緑色の水の蓮の池のあるカフェテリアで、
トマト味のスパゲッティーを食べたっけ。
くつろいで、くつろいで、そしてまた
くつろいでいた。
寺の境内では、娘たちが列になってダンスを習っていた。
それを犬らしい犬が見守っていた。
素晴らしく野蛮で、愛想のない犬が。
ぼくをニホンジンと見て、老人が、
ニホンゴの歌をうたってくれた。
たしかそれは、
軍人の武勲をたたえる歌だった。
困った顔をしたぼくを見て、老人は笑った。
夜の境内では、打楽器合奏と踊りによる
魔物退治の宴がひらかれる。
昼間は食堂や、雑貨屋で働いていた土地の人たちの顔が見える。
夜はすっかり深まり、境内の外には静けさだけがある。
魔物が来たりて、暴れはじめ、それと闘う物語。
いわば悪を退散させる物語。
金属が打たれる音の群れは、はじめ静かにやがてはげしく、
劇を演出してゆく。
闘いの甲斐あって、ようやく魔物も退散、
めでたしめでたし・・・。
どうやらそんな物語らしかった。
いま、ぼくは東京にいて、
ニュースのなかから躍り出た魔物をおもう。
金属が打たれる音は、はげしさを増す。
その島の人が描く絵は、ほぼ緑色の単色で、
色彩を感じない。
描かれる人々の姿には、奥行きのしつらえがない。
あの日、ぼくはその絵の入口を
さがしあぐねたものだった。
蓮の花が静けさのなかで、ちいさな音をたてて開く。
誰の耳にもその音が聞こえなくなったなら、
世界はくだけ散るだろう。
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