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学名のはなし


 ガーデニングの門をくぐったからには、ラテン語の学名をすらすらと使いこなしたいと誰しも一度は思うもの。 そんな不純な動機は別にしても、実際問題として、種(たね)を注文するにも洋書を眺めるにしても学名は重要な要素です。 つまり、学名は種(しゅ)を特定できる万国共通の手段であり、その系統や性質を知るうえでの重要な道しるべとも言えます。

 カタログや図鑑を眺めていると、×印が付いたり、似たような単語でも微妙に語尾が違ったりと、???と疑問が湧いてきます。 そこで、はじめは軽〜い気持ちで調べ始めたのですが、これが意外と難航。 図書館やホームページ上で見つけた僅かな記述をたよりに、ひとまずまとめてはみましたが、素人ゆえの不備な点、解釈の間違いや誤りがあると思います。 お気づきの際はぜひご指摘下さい。 私のように疑問をお持ちの方に少しでもお役にたてばとの主旨で載せてみました。 (本当は私用の備忘録。)


分類体系

 分類の仕方には色々あると思いますが、ここでいう分類は、進化の道筋や近縁関係などを基に分類する系統分類のことです。 この分類の方法は、主要な分類階級に「界、門、綱、目、科、属、種」(「かいもんこうもくかぞくしゅ」と憶える)とあり、一つの種は一つの属に属し、その属はある科に属するという風に分類されていきます。 例えば、界には動物界と植物界があり(正確には原核菌類亜界も加える)、植物界はさらに11の門からなるという具合です(ただし、所説あり)。 これらの主要な階級の他にも、中間的な階級が幾つか設けられています(例えば、属と種の間に「節」や「系」、科と属の間に「連」)。

 植物の分類体系としては、クロンキストの体系(1988)と新エングラーの体系(1964)の二つが良く知られています。 この二つの体系に大きな差はないようですが、同じ種の場合でも科(よりも上の階級)が違ってくることがあるそうです。 また、近年は、DNAなどを用いた研究により遺伝子レベルでの近縁関係の解明が進み、種と属の関係あるいは種とその下位の関係が見直されることもあるようです。

 現在の植物分類学は「種」を基本としつつ、「属」「科」の階級を重視しています。 なかでも形の類似性が現れるのは、「属」に含まれる分類群からです。 学名は、万国共通の生物名であり、一つの生物に一学名が原則ですが、その学名を表記するために使われているのが、この系統分類学上の階級なのです。

二命名法

 学名は、分類群の基本単位である「種」に対して付けられており、国際植物命名規約にもとづき、「属名」「種名(正式には種小名)」を列記する二命名法によって表記されるのを基本とし、最後に学名の発表の正確を期すため「命名者名」を引用します。 この属名および種名はイタリック体で表記されることが多い( * )。 なお、命名者名は学術的な記述でない場合は省略されることも多いようです。(このページの例文でも命名者名は省略します。)( **

 大文字で始まるイタリック体の属名 小文字イタリック体の種名 命名者名

(例) Heuchera sanguinea ツボサンゴ

    オマケ:
     学名は二名式が基本であり、「属名」が名詞で「種名」が形容詞と理解すると分かりやすい。 上記の例では、sanguineaはラテン語で「血のように赤い」という意味なので、「赤い花が咲くヒューケラ」という意味か。
     また、学名はどんな語源から作られてもよいが、命名規約の規定を踏まえて発表されたものはラテン語とみなされる。 その際、属名はラテン語の単数主格の名詞として取り扱われるので、性別(男性、女性、中性)があり、後に続く種名としての形容詞(ないしは分詞)の語尾変化に影響する。 例えば、「日本の」という種名をつけようとすると、属名が男性名詞の場合はjaponicus、女性の場合はjaponica、中性の場合はjaponicumと変化する。(平嶋義宏著「学名の話」による)
     ただし、種名が人名および土俗名に由来する場合は頭文字を大文字にすることが規約で許されており、その際には語尾変化させない。(付記2000.11.27)

三命名法

 植物の場合は、種より下位に、亜種(subspecies)、変種(variety)、品種(forma)(これは園芸品種とは概念を異にする)というランクがありさらに細分化されます。 これらは自然界にあって、その植物の地理的な起源や、花の大きさや色、習性というような性質上の多様性による分類で、この下位のランクを分類するために三命名法があります。

 これらのランクは、3番目の表記として、それぞれの「小名」と正式にはその命名者名を、種名の後に続けます。 この際、そのランクを明確に示すためにssp.、var.、f.のランク名を間に置きます。( * )。

 大文字で始まる属名 小文字の種名 命名者名 ランク名 小名 命名者名

(例) Houttuynia cordata var. variegata 斑入り五色ドクダミ
   (英語で、cordateはハート形の、variegateは斑入りのという意味)

 ただし、人工的な交配でできた園芸品種の場合は、3番目の表記として、単一引用符で囲んだ「品種名」をローマン体で書き上記と区別します。 単一引用符で囲む代わりに、cv.(cultivaの略)に続けて「品種名」を書く方法もあります。 この品種の命名は「国際栽培植物命名規約」によります。

 大文字で始まる属名 小文字の種名 命名者名 '大文字で始まる品種名'
 大文字で始まる属名 小文字の種名 命名者名 cv. 大文字で始まる品種名

(例) Cosmos bipinnatus 'Versailles' コスモス種の品種ベルサイユ
    Cosmos bipinnatus cv. Versailles

    オマケ:
     交配とは、人工的に受粉させ実をつけたり種を取ることで、その性質を固定したものを交配種と呼ぶ。 一般には、異なる品種、種、属の間などの交配は交雑と呼ばれる。 植物の繁殖方法には、この交配のようにタネから増やす「実生繁殖(有性繁殖)」と、株分け、取り木、挿し木、接ぎ木などの「栄養繁殖」がある。

 栽培育種では優秀な形質を得るために長年にわたり人為的に多くの改良(選抜育種、交配育種、突然変異の育種、接木、倍数体育種、細胞融合等)が積み重ねられてきており、新しい形質を持った植物に対して上記とは違う命名を行っています。

園芸栽培における実生繁殖による新しい属、種、品種

1)植物の場合は稀に、異なる属の間での実生繁殖つまり交雑により新しい属が作られることもあります。 この属間交雑では、含まれる二つの属の名を圧縮した新しい属名が与えられ、その前に×印がつけられます。これには二つの属の全ての種の雑種が含まれることになります。

 ×大文字で始まる属名

(例) ×Cupressocyparis  ChamaecyparisCupressusの全ての雑種

2)同じ属のなかで異なる二種あるいは変種同士の交雑によってできた種間交雑種は、属名の後に交雑種を示す×印を付けた種名を書きます。

 大文字で始まる属名 × 小文字の種名

(例) Viola × wittrockiana パンジー ウィットロッキアーナ種

オマケ:
 日本で一般にパンジーと呼ばれているのは、ヨーロッパ原産のスミレのV.tricolor、V.lutea、V.cornuta、V.altica、V.calcarata種などを交配してできたガーデン・パンジーと呼ばれる種類。 一方、西フランスで自生するV.cornuta種を中心に改良されたものは、タフテッド・パンジー別名ビオラと呼ばれる。 イギリスでは、V.tricolor種の選抜交配を中心にブロッチ(中心の大きな斑)が入る多くの園芸品種が作出されてきた。その他、スイス、アメリカ、日本でも品種改良が進んでいる。(小学館「園芸植物」による。)

園芸栽培における栄養繁殖による新しい属、種、品種

 植物では、有性生殖つまり交配によらないで、接木によっても新しい性質をもった改良種を作り出すことができます。 この接ぎ木は、木本類だけでなく草本類の野菜、花卉、例えばパンジーなどでも行われています。

1)異なる属の間でおこなわれた場合は、新しい属名の前に+印を付け種名を続けます。

 大文字で始まる属名 小文字の種名

(例) +Laburnocytisus adamii  Laburnum属とCytisus属の接木雑種

2)同じ属のあいだで種間雑種を作った場合は、属名の後に新しい種名に×印をつけて書き、その後に単一引用符で括った品種名を続けます。 ただし、親の形質が複雑だったりはっきりしない場合は、種名を省き、属名の後に単一引用符で囲んだ品種名だけを書きます。

 大文字で始まる属名 × 小文字の種名 '大文字で始まる品種名'        
 大文字で始まる属名 '大文字で始まる品種名'

(例) Viburnum × bodnantense 'Dawn'
(例) Rosa 'Buff Beauty'


注意:

国際植物命名規約等に直接あたったわけではありません。 主にガーデニング参考図書に載せている本を参考にしましたが、園芸栽培の記述に関しては十分な資料が見つけられず、調べきれていない部分も残っています。 詳しい参考書があればご教示頂けると幸いです。

補足:

* 学名の書体は命名規約では定めはなく使用者の選択に任されているらしい。 が、一般に、属名、種小名、亜種名などはイタリック体で標記され、ランクを表す略語および命名者名はローマン体で表されることが多い。

** 学名は命名規約に則り、最も早く有効に発表されたものが優先権をもち、「正名」correct nameとなる。 その後、新しい発見あるいは見解の相違などから、新しい学名が発表され変更されることがある。 正名以外の学名を「異名」synonymという。


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